やさしく、あたたかなタッチのイラストが人気のイラストレーター・みなみななみさん。
2026年7月に刊行された新刊『マリアが笑った!』は、ケニアで障害のある子どもたちのための施設「シロアムの園」を2014年に創設した小児科医・公文和子さんの著書『グッドモーニング・トゥ・ユー!』に登場する女の子・マリアを主人公にした絵本です。
今回は、『マリアが笑った!』の制作背景や、9月に刊行される『ひめくり ヘブンズプランツ 耳を澄ませて』について、お話を伺います。
「一緒に生きる」公文和子さんの姿に心を打たれて
――さっそくですが『マリアが笑った!』を制作することになったきっかけを教えてください。
正直に言ってしまうと、お世話になっている編集者の結城絵美子さんから依頼をいただいたことがきっかけです。
結城さんは、2016年に起きたやまゆり園事件で、障害のある人たちが標的になったことに、とても心を痛めていらっしゃいました。障害があっても、言葉で意思疎通ができなくても、すべての人には生きる価値があるのに、という思いを強く持っていらっしゃいました。
そんなときに、新聞記事か何かで、ケニアで障害のある子どもたちとずっと働いている小児科医・公文和子先生の活動を知ったそうです。公文先生はクリスチャンでもいらっしゃるので、結城さんが「この方に、障害のある子どもたちと働いてきたことを書いてもらいたい」と考えたことから、『グッド・モーニング・トゥ・ユー!』の企画が生まれました。
その本に登場する子どものひとり、マリアちゃんのエピソードを絵本にしたいということで、私に声をかけていただきました。
別の書籍で公文先生にお話を伺う機会があったことと、以前、私がケニアに住んでいたことも、今回の依頼につながった理由の一つだったのかもしれません。
――みなみさんは『グッド・モーニング・トゥ・ユー!』を読まれて、どのようなことを感じましたか?
自分の力で人を救うのではなく、神様の力によって「隣人となる」という公文先生の姿に、心を打たれました。「この障害のある子どもたちの、誰の隣人になるのですか」と神様に問われて、「この子たちと一緒に生きていこう」と決断されたことが、本当に素晴らしいなと思います。
困っている人、助けを必要とする人を支援する立場になると、どうしても「助けてあげる」という視点が生まれてしまったり、「こんなに助けてあげているのに、結果が出ない」と腹が立ってしまったりすることがあります。
でも、公文先生は一貫して、「助けてあげる」「支援してあげる」ではなく、「一緒に生きる」という姿勢でいらっしゃる。そして、子どもたちから力をもらい、教えられていると心から感じていらっしゃる。それが伝わってきて、本当に素晴らしいと思いました。
もう一つは、ケニアの現状の厳しさです。日本でも、障害のある人にとってまだまだ生きづらい環境だと思いますが、ケニアは日本の比ではありません。
絵本の主人公であるマリアは、家に閉じ込められ、社会から隠され、いないものとされていました。それは単純に家族の問題ということではなく、そうせざるを得ない社会状況があることを知りました。
そんな厳しい状況のなかで、マリアがシロアムの園に通うようになり、公文先生とふれあうなかで、笑顔を見せるようになったり、一人ひとりの子どもたちの生活が変わっていったりする。その姿が本当に尊いなと思います。
すべてがうまくいくわけではなく、命を落としてしまうことも、救えない命もある。それでも、その中で公文先生が働きを続けていかれる。そこに神様がおられるのだな、ということを感じます。
――先ほど、以前ケニアに住んでいらっしゃったとお話がありましたが、ケニアでの暮らしについても教えていただけますか?
ケニアには、合わせて3年半くらい滞在しました。
最初は若い頃に、1年間ほどスワヒリ語を学ぶために現地の学校に通いました。このときにケニアのことがとても好きになったんです。
その後、1992~95年にかけて、国際的な聖書翻訳団体であるウィクリフ聖書翻訳協会の日本支部を通じて、ボランティアヘルパーとして再びケニアへ行きました。
ケニアには約40の部族と言語があるといわれているのですが、現地では、まだ聖書が翻訳されていない少数民族のために翻訳活動を行うプロジェクトに参加しました。
インフラが整っていない貧しい地域が多く、人々は電気・ガス・水道のない暮らしを送っていました。川へ水を汲みに行ったり、薪を拾って火をおこしたりして、食事を作るような生活をしていたんですよ。
――現地で見聞きされた経験は制作にも生かされたのでしょうか。
ケニアは貧富の差がとても大きいということを、実感として知っています。きちんとした会社に勤めて、いい給料をもらい、トヨタの車に乗り、大きな家に住み、お手伝いさんを雇っている人もいれば、子どもを小学校に通わせることさえ難しい人もいる。
当時は、資格を持った看護師さんでさえ、村の病院で働いても十分な収入を得られないという現実がありました。日本だったら命を落とさないような病気で亡くなる人がたくさんいることも、見聞きしていました。
私が住んでいたのは何十年も前なので、貨幣価値なども変わっていますし、今は当時より良くなっているところもたくさんあるとは思うのですが……。
私が滞在していた地域は、「シロアムの園」があるナイロビ郊外とは離れていましたが、Google Earthで建物がある地域周辺の様子を調べながら描きました。
――制作するうえで大切にされたことはありますか?
公文先生が見たときに「ああ、マリアだ」と思ってもらえるような、その子の命の輝きが伝わる絵にしたいと思って描きました。
『マリアが笑った!』は一般的な絵本のように、ハッピーエンドの物語ではありません。
架空の人ではなくて、ちゃんと生きて、そこにいる。私の中で生きているマリアを描きたかった。私の絵でどこまで伝わったかは分かりませんが、神様の愛が伝わるようにと願って描きました。
また、今回の作品には、「シロアムの園」の写真集も収められています。
人の命はとても大切だということを文章だけで伝えようとすると、お説教っぽくなってしまいがちですが、物語であったり、絵だったり、写真だったりすることで、心に響いてくれたらいいなと思っています。
聖書のメッセージを日常に
――『マリアが笑った!』もそうですが、みなみさんは、『ぼくのみたもの 第五福竜丸のおはなし』や『ヒロシマの少年 じろうちゃん』など、社会的なテーマも扱っていらっしゃる印象があります。絵がとてもかわいらしいからこそ、かえってその背景にあるものが迫ってくるような感覚もあって。
ありがとうございます。テーマは自分で決めるのではなく、今回のように、編集者の方から依頼をいただいたり、何かとの出会いがきっかけになったりすることが多いです。
ただ、『ぼくのみたもの 第五福竜丸のおはなし』は、自分から描きたいと思った作品です。当時の出版部長に第五福竜丸展示館へ連れて行っていただいて、学芸員の方のお話を聞いているうちに、頭の中に絵が浮かんできて、「これを外に出すのが自分の仕事だ」と感じたんです。
その作品を見てくださった被爆二世の山田みどりさんから、広島の原爆のことを伝えたいという思いで書かれた詩に絵をつけてほしいと、『ヒロシマの少年 じろうちゃん』のご依頼をいただきました。
私の父が東京大空襲を経験していて、子どもの頃から「戦争は嫌だ」と聞かされていました。私自身の中にも当然、平和を願う気持ちがあり、お話をいただいたときには、ぜひ描かせてくださいとお返事しました。
――最新作の『ひめくり ヘブンズプランツ 耳を澄ませて』はシリーズ5作目ですね。
ひめくりシリーズでは、聖書のなかから31のメッセージを選び、「神様が伝えたいのは、こういうことなんじゃないかな」というニュアンスをくみ取って、私なりの言葉に置き換えて短い文章とイラストを添えています。
このシリーズは、いのちのことば社『百万人の福音』の編集長を務める宮田真実子さんから企画をいただいたのが始まりです。宮田さん自身、子育てをしながら仕事をするなかで、忙しくて聖書を読む時間が取れないことがあったそうです。そこで、部屋に置いておけば、短い言葉が自然と目に入るような日めくりを作りたいという話になりました。
もともと『百万人の福音』で連載していた「ヘブンズドロップス」を、日めくりとしてシリーズ化したものです。
聖書を読む元気や時間がないときにも、ふと言葉が目に入って、励まされたり、慰められたり、少し心が神様のほうに向いたり。そんな助けになるものになればと思っています。
――確かに、忙しかったり、疲れたりしていると、聖書を開く気力もなくなります。文字を追うのもしんどいというか。
私にもよくありますよ。
音声で聴くことはあっても、日常的にぶ厚い聖書を開くのはなかなか……。
――みなみさんの絵はポップでやわらかいタッチなので、贈り物にも喜ばれそうです。
プレゼントに使ってもらえたらいいな、という思いもあります。
聖書の知識がなくても、聖書を読んだことがなくても、心にすっと入ってくるような言葉を選ぶことを心がけています。
今回は、お花の絵を描く予定です。と言いつつ、まだほとんど描けていないんですが……。(取材をしたのは2026年7月)
次のテーマは、「ちゃんとしてない」自叙伝?
――そんな状況で聞くことではないかもしれませんが、これから描いてみたいテーマはありますか?
いっぱい描きたいものはあるんですけど、いちばん描きたいものは漫画です。
以前、自分が神様に出会い、導かれた「証」を漫画にしたことがありますが、大学生の頃に「神様を信じました」「自分の力ではなく、恵みによって救われるということが分かりました」というところで終わっているんですね。
その後にも本当にいろいろなことがありました。長くクリスチャンとして生きるなかで、分かったつもりでいたけれど、全然分かっていなかったことに気づいたり、いくつも教会を変わったり……。変なカルト宗教にハマってしまった時期もありました。(苦笑)
そういうことも全部、過ぎてしまえばネタになるなと思って。
死ぬまでに描けたらいいなと思っています。

――確かに、洗礼を受けたからといって、そこが人生のゴールではないんですよね。
本当にそうですよね。
自分の人生において、「神様を信じてよかった」と思っています。
でも、その後は「みんな素晴らしい人生になりました」というわけではないんですよね。童話みたいなハッピーエンドではない。
洗礼を受ける前は、クリスチャンって、“ちゃんとしている人”だと思っていました。でも、実際はそんなことないんです。
「敬虔なクリスチャン」という言葉がありますが、いつまで経っても私自身は、ちゃんとなんてしないんですよ。
――この間、美術館で「ゲッセマネの祈り」をテーマにした絵を見たんです。イエスが必死で祈っているそばで、弟子たちは寝ている場面で――これって、全然ちゃんとしてないですよね。
イエスに「寝ないでくれ」と言われたにもかかわらず、3人の弟子がグーグー寝ている。まったくちゃんとしてないですね。(笑)
――それでも救われるんだと思うと、そこにちょっと希望があるなとも思って。
そう、それでもいいんですよね。
ちゃんとできなくてもいいんです。
――ちゃんとできなくて、落ち込んでしまいそうなときに、「ひめくり」のメッセージが「明日も頑張ろう」と思わせてくれるかもしれません。
そうだったら嬉しいですね。
――今日は貴重なお話をありがとうございました。

みなみななみさんのイラスト展「耳を澄ます」が、2026年9月16日(水)~9月29日(火)、銀座・教文館3F「ギャラリーステラ」で開催されます。
会場では最新作、『ひめくり ヘブンズプランツ 耳を澄ませて』の原画が展示されるほか、これまでの著作を手に取ることもできます。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。



