NCC 金総幹事が首相に要望書「日本は積極的な外交努力を」

日本キリスト教協議会(NCC)の金性済(キム・ソンジェ)総幹事は11月16日、「イスラエル軍によるガザ破壊を止める外交努力を求める要望書」を岸田文雄首相に宛てて発出した。

イスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突をめぐり、国連総会が10月27日に採択した「人道的休戦」を求める決議案を日本が棄権したことについて金総幹事は、「イスラエルの自衛論の名の下にどのように非人道的な大虐殺の事態がガザにおいて起こっているかについて、その事態を国際法と人道の倫理基準に照らし評価し、国際社会に積極的に提言していく日本自身の主体的な判断が見受けられず、憲法9条をもつ国家としての理念と矜持さえ感じられない」と指摘。欧米諸国が、「停戦に向けた仲裁的役割を果たすことが極めて困難な歴史と現実を抱えている」中で、「欧米と比べ外交的にはるかに中立的な位置にある日本の立場を有意義に活かすことによって」積極的に外交努力に尽力するよう岸田首相に求めた。

要望書の全文は以下の通り。


内閣総理大臣
岸田文雄 様

イスラエル軍によるガザ破壊を止める外交努力を求める要望書

世界を驚愕させた去る10月7日のハマスによるイスラエルへの電撃攻撃は、千四百人の命を奪い、二百数十人の人々がハマスによって人質として連れ去られました。この暴挙は決して許されるものではなく、世界の厳しい非難と抗議が向けられることは当然であります。しかしながら、その後、今日に至るまでイスラエル軍がガザ地区の人々に対してしてきたことは、今や死者が一万数千人に及ぶ市民の犠牲であり、その半数近くが女性や子どもであるという現実です。もはやこの現実は、イスラエルの自衛権の行使という論を完全に破綻させ、ひたすらガザのハマスを全滅させるためならどれほどのガザ市民の犠牲もいとわないという事態といえます。

去る10月27日に、国連総会は、「人道的休戦」の決議案を121か国の賛成で可決しました。しかしながらその時、日本はその決議について棄権したことは、休戦ないし、停戦を求める日本の内外の人々にどれほど大きな失望を与えたことでしょうか。同日、上川外相は国連決議棄権についての記者の質問に対して「我が国は直接の当事者ではなく個別具体的な事情を十分把握しているわけではないので確定的な法的評価は差し控えたい」と答え、その三日後には岸田首相は衆議院予算委員会での質問に対して棄権の理由について、人道的休戦案に「ハマスのテロに対する強い非難がなかった」と答えられました。外相と首相のお二人の言葉には、イスラエルの自衛論の名の下にどのように非人道的な大虐殺の事態がガザにおいて起こっているかについて、その事態を国際法と人道の倫理基準に照らし評価し、国際社会に積極的に提言していく日本自身の主体的な判断が見受けられず、憲法9条をもつ国家としての理念と矜持さえ感じられないことを、わたしは指摘せずにおれません。

ガザをはじめとするパレスチナ問題の本質は、極めて長く深い歴史的背景を抱えています。第一次大戦がオスマン帝国を崩壊させていきながら、その後の今日の悲劇に至らしめることとなる重大な三つの外交文書が交わされました。第一は、オスマン帝国との戦いにアラブ勢力が参戦することを条件に戦後のアラブ諸国の独立を英国が約束した「フサイン・マクマホン協定」(1915年)。第二は、大戦後に、中東地域を、英国とフランスで分割して植民地化することを秘密裏に決定した「サイクス・ピコ協定」(1916年)。そして第三に、ユダヤ人富豪からの戦費捻出との引き換えに、パレスチナ地域にユダヤ人の「民族の故郷」(national home)設立を支持する「バルフォア宣言」(1917年)。この三つの協定と宣言は、「三枚舌外交」とも呼ばれ、論理的には支離滅裂で、中東地域の利権のみをもくろむ英国とフランスがパレスチナを含むアラブの国々と人々を利用し、犠牲にした20世紀前半の欺瞞の外交政策の歴史的証拠であります。そして、ここから1948年のイスラエル建国以降も、今日まで止むことなく戦争がイスラエルとパレスチナとの間で繰り返されることとなりました。

言い換えれば、長い歴史の中でユダヤ人差別を続けてきながら、パレスチナの人々を犠牲にしてでも第二次大戦後、自分の国からパレスチナの地にユダヤ人が少しでも出て行くことを促した英仏も、ユダヤ人に対してホロコーストを行った歴史を抱え、イスラエルの側に着くとしか表明しないドイツも、「ポグロム」(ユダヤ人迫害)政策を行った歴史をもつロシア/ウクライナ(旧ソ連)も、またハマスのイスラエル攻撃直後に「イスラエルの側につく」とあからさまにバイデン大統領が宣言した米国も、停戦に向けた仲裁的役割を果たすことが極めて困難な歴史と現実を抱えているともいえます。

岸田首相におかれましては、このようなユダヤ人とパレスチナ人をはじめ中東世界めぐる欧米諸国による外交の歴史的に甚大な過誤の背景を理解され、そしてそのような歴史的文脈においては欧米と比べ外交的にはるかに中立的な位置にある日本の立場を有意義に活かすことによって、もうこれ以上無惨にガザの人々の命が奪われないように、また人質とされた人々の解放に向けて、今こそ憲法9条の国にふさわしく積極的に前に出て外交の努力に尽力されますことを、心より要望するものであります。

2023年11月16日
日本キリスト教協議会
総幹事 金 性済

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