NCCが緊迫化する中東情勢受け声明 「和解と平和の実現のため祈り対話続けよ」

 砲撃の応酬が激しさを増し、緊迫化する中東情勢を受けて日本キリスト教協議会(NCC、吉髙叶議長、金性済総幹事)は10月12日、「パレスチナとイスラエルの平和を願う声明文」を発表した。

声明では今回のハマスの武力攻撃を厳しく批判しつつ、「この事態に対するイスラエルの対応は事態をさらに絶望的な方向に導くと考え、憂慮と疑問を禁じえず、また、米国大統領が今なすべき発言は、イスラエル側に着くことの公言ではなく、いかに戦闘の終息に向けた外交的対話の場をつくるかについて方針を示し、世界に呼びかけることであった」と指摘。

ハマスによる暴挙の背景には「ヨルダン西岸とガザ地区のパレスチナ人の歴史的に置かれてきた理不尽を全く棚上げにしたまま、イスラエルがアラブ諸国(アラブ首長国連邦<UAE>、サウジアラビア)と友好関係を樹立しようとする最近の動向への反発」があったとし、「歴史の中でどちらも寄留者としての苦難の道を歩んできた民」に「測り知れない責任を負う世界は、政治的利害をこえて、和解と平和への道につながる外交的対話の場を設けるために、国連の仲介を通して全力を尽くすべき」「和解と平和の道の実現のために祈り、また対話を続けることを惜しんではならない」と訴えた。

声明の全文は以下の通り。


パレスチナとイスラエルの平和を願う声明文

「わたしは、わたしとあなたたちならびにすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた契約に心を留める。水が洪水となって、肉なるものをすべて滅ぼすことは決してない。」(創世記9章15節:新共同訳)

 パレスチナ・ガザ地区を実効支配していたハマスが去る10月7日、イスラエル側に向かって電撃的な攻撃を開始し、イスラエル側の多くの人々が人質に取られました。この攻撃に対してイスラエル側も反撃し、今やガザとイスラエル側双方において2500人を超える人々が命を落とす事態となっています。

 わたしたちは、このハマスによる暴挙に対し世界の人々と共に抗議します。しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は、それに対してこれを「戦争」と認識し、徹底抗戦を宣言し、ガザに向かって大量の軍事投入をする方針を公表しました。さらに米国バイデン大統領はこの途方もない戦闘状態の中でイスラエルの側に立つと発表しました。

 わたしたちは、今回のハマスの武力攻撃に厳しい批判を向けると共に、この事態に対するイスラエルの対応は事態をさらに絶望的な方向に導くと考え、憂慮と疑問を禁じえず、また、米国大統領が今なすべき発言は、イスラエル側に着くことの公言ではなく、いかに戦闘の終息に向けた外交的対話の場をつくるかについて方針を示し、世界に呼びかけることであったと考えます。

 世界においてディアスポラ(離散)と迫害による苦難の歴史の暁に、聖書の「約束の地カナン」の理念に基づき、シオニズム運動は1948年のイスラエル建国として結実しました。しかしながら、それは先住の民パレスチナ人を抑圧し、排除する歴史の始まりともなりました。以来、何十万ものパレスチナ人は難民として生来の地を追われ、流浪を余儀なくされました。国連が1948年12月に可決(第194号)した「難民の故郷への帰還の権利保障」はイスラエルによって全く無視され、今日に至るまでパレスチナ人とイスラエルとは幾重にも武力紛争を繰り返してきました。

 1993年9月、ノルウェーの仲介による「オスロ合意」によってパレスチナ国家とイスラエルの国家共存の道が多くの難題を残しながらも示されました。しかしその道が結局、2000年代に入り、挫折と破綻へと至り、そしてついに今日の事態を迎えたといえます。そして、ヨルダン西岸とガザ地区に暮らすパレスチナ人は今もなお、植民地支配を受けるような政治経済的な制約に縛られる過酷な現実を強いられているのです。

 この度のハマスの暴挙は、このようなヨルダン西岸とガザ地区のパレスチナ人の歴史的に置かれてきた理不尽を全く棚上げにしたまま、イスラエルがアラブ諸国(アラブ首長国連邦<UAE>、サウジアラビア)と友好関係を樹立しようとする最近の動向への反発とも言われています。

 聖書における、イスラエルに、神によって約束されたカナンの地とは、寄留者アブラハムたち、そしてエジプトの地で奴隷という寄留生活を強いられたイスラエルの民に示されたものであることをわたしたちは想起します。同時に、そのような苦難を経た民イスラエルにカナンの地を約束された神は、「あなたは寄留者を虐げてはならない。あなたたちは寄留者の気持ちを知っている。あなたたちは、エジプトの国で寄留者であったからである。」(出エジプト記23章9節:新共同訳)とも命じているのです。

 イスラエルとパレスチナ自治政府のたどり着くべき平和への道は、歴史の中でどちらも寄留者としての苦難の道を歩んできた民が、この聖書の指し示す道に立ち帰る以外にはなく、この二つの民の苦難に歴史的に測り知れない責任を負う世界は、政治的利害をこえて、和解と平和への道につながる外交的対話の場を設けるために、国連の仲介を通して全力を尽くすべきです。

 わたしたちキリスト者は、そのためにユダヤ教やイスラム教をはじめ、諸宗教の間でこの和解と平和の道の実現のために祈り、また対話を続けることを惜しんではならないのです。

 神がノアとの間に立てられた「虹の契約」とはすべてのいのちとの和解と平和のしるしであり、「虹」(ケシェット)とは、戦いを止めた弓の形であることを思い起こしながら、わたしたちはパレスチナとイスラエルの平和を切に祈り続けましょう。

2023年10月12日

日本キリスト教協議会
議長 吉髙 叶
総幹事 金 性済

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