N・T・ライト氏 現代イスラエルを「預言成就」とする見方を「非聖書的で危険」と批判

英国の著名な新約聖書学者で、英国国教会の元ダラム主教、N・T・ライト氏(77)が11月2日、米テキサス州ダラスで開かれた講演会で、現代のイスラエル国家を聖書の預言成就とみなす一部福音派の見解について、「完全に非聖書的」であり、「信じるには非常に危険なこと」と厳しく批判した。米キリスト教ニュースサイト「クリスチャン・ポスト」「チャーチリーダーズ」などが報じた。

ライト氏は、パーク・シティズ・バプテスト教会で11月1~4日に開催されたローマ書に関する講義シリーズ「ローマ書の新たな挑戦」に登壇。2日の質疑応答で、イスラエルとパレスチナをめぐる問題やキリスト教徒の政治的責任について見解を述べた。

ライト氏は、現代のイスラエル国家を聖書預言の実現と結び付ける考え方について、「特に米国では、いくつかの奇妙な思想の流れが、現代のイスラエル国家を預言の成就とする、私には完全に非聖書的と思われる考え方を生み出してきた」と指摘。その背景に、19世紀に成立したディスペンセーショナリズム(時代区分主義)などの神学的潮流があると説明した。

さらに、かつてはこうした解釈を単なる風変わりな思想と考えていたものの、現在ではその影響が現実の政治や国際情勢に及んでいるとして、「非常に危険なことだと分かってきた」と警告した。

ディスペンセーショナリズムは、神の救済計画を複数の時代に区分して聖書を解釈する神学的立場で、イスラエル民族と終末の出来事を重視する。その影響を受けたキリスト教シオニズムでは、1948年のイスラエル建国やその後の領土拡大を聖書預言の成就と捉え、イスラエル国家への支持を信仰上の責務と考える立場がある。米国では保守的な福音派を中心に広がり、外交政策にも影響を及ぼしてきた。

ライト氏は、旧約聖書に記された「約束の地」の意味についても言及。「約束の地は、神が被造世界全体に対して主権を持つことを示す比喩だった」と説明し、特定の領土に関する約束を現代国家の領有権と直接結び付ける解釈に異議を唱えた。

米国の一部で、聖書に記されたイスラエルの民への土地の約束が現代のイスラエル建国によって再び実現し始めたと考えられていることについては、「聖書的に言えば、まったくのナンセンスだ。これ以上強くは言えない。完全な誤読だ」と断言した。

その上で、「究極的には、世界全体が神の聖地である」と述べ、キリスト教徒が目指すべきなのは武力による領土の確保ではなく、イエスが示した自己犠牲的な愛によって神の主権を証しすることだと強調。「弾丸や戦車による方法ではなく、自らを捧げる愛による方法」であるべきだと訴えた。

また、米国や英国が自国を「キリスト教国」と称することについても、その根拠を示すのは難しいと指摘。山上の説教や詩編72編を引き合いに、国家がキリスト教的価値を掲げるのであれば、貧しい人々、孤児、やもめ、抑圧された人々への正義を実現しているかが問われなければならないと語った。

今回の発言は、米国の中間選挙前日に行われた。ライト氏は、イスラエルへの支持だけを投票の判断基準とすることに疑問を示す一方、キリスト教徒が政治的責任を放棄するべきではないとも述べ、投票を棄権することは責任の放棄に当たると指摘した。

ライト氏の問題提起は、聖書解釈を現代国家の政策や軍事行動の正当化にどこまで結び付けられるのかという、米福音派内部の神学的対立に改めて光を当てるものとなった。

ライト氏は、パウロ研究や史的イエス研究で国際的に知られ、80冊以上の著書がある。今回の講演会では、ローマ書を現代の教会に向けたメッセージとして読み直し、神がイエス・キリストと聖霊を通して被造世界全体を救済するという聖書の展望を論じている。

(翻訳協力=福島慎太郎)

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