職場での会話(雑談)に、まったくといっていいほどついていけません。とっさに言葉は出ません。みなさんの言っていることも理解できません。その状況で、実は大切な仕事上の指示が含まれていたりした場合など、それが聞けていないので、後からみんながわかっていることを自分だけ聞いていなかったということで叱責を受けることがあります。
「言われなくても状況を見て動け」といった指示は、極めて苦手です。空気が読めないからです。「指示待ちはいけない、自分で考えて動け」という指示も苦手ですが、自分で考えて動くとたいがい失敗するので、「自分で考えて動くな、なんでも人に聞け」という正反対の叱責(「自分で考えろ」と「自分で考えるな」)を同時に受けることもあります。
しばしば映画が理解できません。テレビドラマや小説も苦手です。空気が読めないので、今いったいなにが起きているのか理解できないからです。なんとなく見よう見まねで仕事を覚えることは極めて苦手です。空気で理解することは極めて難しいことです。
逆のことも言えます。空気で理解することは困難ですが、体系だてて、順序だてて、論理的に説明を受けると、よく理解できます。学生時代、成績がよかったこともこれに関連します。「教科書」や「授業」というものは、体系だてて、論理的に教えてくれるものだからです。むしろ体系だった説明は、人並み以上に理解がよいとも言えます。これは学生時代のことだけではなく、最近でも教員免許更新講習も極めて良い成績で通り、情報の実習助手をしたときも人一倍理解は深く、また司書教諭の資格を取るため半年間、通信教育で勉強したときも、通信教育の先生方の間で極めて優等生で通っていました。ただし、理解していることを「出力」することは苦手ですので、要領よく世の中をわたることは苦手です。
夜、横断歩道でないところを、車の通行の少ないところを見計らって渡ることは苦手です。多くの人は、ここは横断歩道でないけれども今は車の通行も少ないし、「空気を読んで」横断すると考えられます。私は、遠回りでも横断歩道まで行って道を渡ります。私をはじめ、多くの発達障害の人が「ルールを守る」ことに固執しているように見えるのはこのためです。世の中のほとんどのことは、ルールがありません。みなさん「空気を読んで」「常識で判断して」生きていっています。私は常識(多くの人が暗黙のうちに共通して了解しているもの)が理解できませんので、しばしば常識外れという叱責を受けます。
私は、発達障害の人がしばしばそうであるように、人が気が付かないような誤字脱字・誤変換などに、敏感に反応することがあります。多くの本にたくさんの誤植を見つけ、それを出版社に問い合わせて、感謝の返信をいただくことは頻繁にあります。これも空気が読めないことと関連があります。多くの人は誤字脱字があっても、目が「空気を読んで」自動的に正しい読みに修正し、文章を読んでいくと考えられます。私にはそのような自動修正能力が欠落しているので、人が気が付かないような誤植・間違いが目に飛び込んでくるものと考えられます。
「忖度」とは、まさに空気を読むことですので、極めて苦手です。おせじなども苦手です。
この文章自体がそうですが、私は自分のことばかり一方的に話してしまう癖があります。言葉のキャッチボールは苦手です。教員であったころ、生徒がパッとなめるような発言をしたときに、サッと言い返すことができません。それで、授業が崩壊しました。
リアルの人間関係が苦手であるのと同様、インターネットでのマナーも苦手です。ブログも、フェイスブックも、なにが言ってはいけないことかわからなくなるので、いつ失言をするかわからないという思いでやめてしまいました。
私のこの「空気が読めない」という性質は、正確に言いますと「人と違う空気を読んでいる」ということになります。私は教員になって、生徒から、友だちがいるのか? となめられるほど変人でした。実は小学校では怒られ、いじめられの日々でしたが、大学に入ったら一生付き合える親友がたくさんできました。大学には、不器用だったり生き方に欠落があるけれども、一つのことに秀でた人がたくさんいました。
私のこの、空気が読めない、常識がないという欠点は、裏返せば発想が独創的であるという長所にもなります。私が学生時代に書いた数学の論文は、たいへんに独創的だと高い評価を受けておりました。また、現在も教会では「なかなか独創的」で通っています。他にも数少ない成功例として、監査の前の「間違い探し」で、私の「間違い見つけ」の賜物が発揮されたり、膨大な計算をエクセルのマクロで一瞬で終わらせたりということがありました。社会に出て15年になりますが、仕事で肯定的に評価されたのは、たったの2回です。あとは何万回も、何百万回も、ひたすら怒られています。
私の才能を生かして食べていくことって、できないのでしょうか……。3回目の休職の3カ月目、最近もある採用試験を受けて落とされ、途方に暮れています。
腹ぺこ 発達障害の当事者。偶然に偶然が重なってプロテスタント教会で洗礼を受ける。東京大学大学院博士課程単位取得退学。クラシック音楽オタク。好きな言葉は「見ないで信じる者は幸いである」。