N・T・ライト著/岩上敬人訳 すべての人のためのローマ書2(山口希生)【本のひろば.com】

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評者: 山口希生

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〈評者〉山口希生


N・T・ライト新約聖書講解10
すべての人のためのローマ書2
9 -16章

N・T・ライト著
岩上敬人訳

四六判・196頁・定価2310円・教文館

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N・T・ライトはローマ書簡を四楽章から成る交響曲に見立てています(本書一四六頁)。本講解シリーズ9の「ローマ書1」では第一、第二楽章にあたる「一─四章」と「五─八章」に、そして本書「ローマ書2」では第三、第四楽章に相当する箇所に注解が施されています。具体的には、ユダヤ人のメシア・イエスへの不信仰という深刻な問題を扱った「九─一一章」が第三楽章で、キリスト者としての具体的な歩みについて教える「一〇─一五章」がフィナーレの第四楽章だということです(一六章は挨拶、あとがきに相当します)。大使徒パウロのマスターピースであるローマ書に匹敵する交響曲をクラシック音楽から探すならば、ベートーヴェンの第九ほど相応しい曲はないでしょうが、このジャンルの全く異なる二つの傑作には興味深い類似点があります。ベートーヴェンは当時の交響曲の慣例を破って、第二楽章ではなく第三楽章に祈りにも似た緩徐楽章を置きましたが、それがこの交響曲に何とも言えない深みを与えました。パウロの九─一一章も祈りとも思えるようなパウロの個人的な心情を吐露した箇所ですが、イスラエルの躓きが、異邦人を救いに導くというイスラエルの召命を逆説的に果たす結果となることを、ライトは丁寧に説明しています。族長ヨセフの兄弟たちがヨセフに働いた悪が、結果的には異邦人にもイスラエル人にも益となったように、ユダヤ人の悲しむべき現状が、ついにはユダヤ人と異邦人から成る一つの家族へと結実していくというパウロのヴィジョンを、本書は感動的に描いています。

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