【インタビュー】日本福音ルーテル東京教会牧師・関野和寛さん あがいている姿を通してキリストを伝えたい(前編)

 

日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)の主任牧師で、ロックバンド「牧師ROCKS」のボーカル、ベーシストとしても活動する関野和寛(せきの・かずひろ)さん。その最新刊『神の祝福をあなたに。──歌舞伎町の裏からゴッドブレス!』(日本基督教団出版局)が10月18日に発売された。月刊伝道新聞「こころの友」の連載を1冊にまとめたものだ。

新宿の歓楽街の裏にある関野さんの教会に訪れるのは、詐欺師や夜の仕事をしている人々、酔っ払いなど。彼らの本音に耳を傾けながら「ゴッド・ブレス(神の祝福)」を届け続けた、笑って泣ける苦闘5000日のエピソード30本が収録されている。

実は関野さんは来年3月末で任期を終え、5月から米国に渡って、病院内で患者に寄り添う牧師(チャプレン)になるための研修を受ける予定だという。本書は「14年間の牧師生活の集大成」という関野さんに話を聞いた。

──この連載を執筆する上で大切にしたことは?

「こころの友」がクリスチャンではない方をターゲットにした媒体ということもあり、「みことば」や「覚える」などのクリスチャン用語はいっさい使わないと決めています。表現も分かりやすく、とてもシンプルにしていますね。

──時には命の危険を感じるようなことや、「飼っていた亀が死んだから葬式をしてほしい」と頼まれたエピソードなど、難題をつきつけられることも多いですね。

はい、「まえがき」にも書いていますが、歌舞伎町という場所柄、この教会には本当に前触れなく、いろんな人が来るんですよ。ホームレスや企業の社長、心の病を抱えて苦しんでいる人、刑務所から出てきたばかりの人、芸能人など。子どもも老人もやって来ます。まさに聖書の世界と同じですね。

いずれも問題を抱えた人が来るわけですが、そのたびに僕自身が神に問われているように感じています。たとえば、女の子が亀を連れてきた時は、僕がこれから夕食を食べようとしているタイミングで、初めは正直なところ「早く何とかしてご飯にありつきたい」という思いしかありませんでした。僕はそういう自分勝手な人間なんです。でも、残った1%の信仰でその人に寄り添う。その繰り返しですね。毎回毎回、葛藤しています。

あるとき、自らも病気を抱えて家族関係にも苦しんでいる人が教会に来て、「神様は本当にいるんでしょうか」と聞かれたことがありました。そのとき僕は少し考えてから、「あなたがそんなに苦しんでいるのに何もしてくれないのだとしたら、もしかしたら神はいないのかもしれませんね」と言ったんです。内心ドキドキしていたんですが、その方は涙を流されて「牧師さんでさえ神がいないと言ってくれて救われた」と言って帰っていかれました。

その方は、神様を本当に否定したかったわけではないと思うんです。だったら教会になんてわざわざ来ませんよね。もちろん僕も、「神様なんていない」と言いたいわけじゃない。「神様は本当にいるの?」という言葉は、究極の「こんな私を助けてください」という祈りでもあったんです。「牧師だから、こうじゃなきゃいけない」というルールはない。絶対に人が口にできないことを、愛をもって言うと、それは福音になるんです。

──牧師である前に一人の人間として向き合うということでしょうか。

そうですね。僕は誰よりも弱くて、心が狭い人間です。病気で悩んで苦しんでいる方がいらっしゃった時に、つい「いま忙しいんだけどな」と思ってしまうことも少なくありません。でも、それと同時に、「自分は来年から渡米して、そういう方の声を聞こうとしているんじゃないのか。なぜ今この場所でそれができないのか」と、もう一人の自分の声が聞こえてきます。

牧師は決して偉い人ではありませんし、誰かを救ったり導いたりする立場ではないと思っているんです。誰よりも先に迷って、誰よりも先に過ちを犯して、弱くて……。でも、誰よりも先に神にすがるのが牧師だと僕は思っています。

──どんな方にこの本を手に取ってほしいですか。

まずは、この教会のある町に住むクリスチャンでない人や、歌舞伎町で仕事をしている方に読んでいただけたら嬉しいですね。本当はみんな、いろんな悩みや苦しみを抱えて、ギリギリなところで生きている人が多いと思うんです。この本をきっかけに「自分も教会に行ってみようかな」と思ってもらえたら最高ですね。(後編に続く)

河西 みのり

河西 みのり

主にカレーを食べています。

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