東日本大震災から10年の節目の年を、新型コロナウイルス感染症パンデミックの中で過ごしています。 多くの悩みと苦しみ、痛み、悲しみ、喪失を抱えるこの世界と特に被災地のために祈ります。
2011年3月11日、そしてそれからの日々を思い起こすと、胸が苦しくなるような感覚を覚えます。震災直 後から始まった様々な対応、その中で決断したこと、実行したことを思い出すと、もっとこうしたほうがよかった のではないか、あれはしないほうがよかったのではないか、もっと適切な対応があったのではないか、どうし てあのようにしてしまったのか、などなど悔いや反省が募ってくるのです。
それから10年。新型コロナ・パンデミックの中で多くの教団、諸教会、宣教団体も異例尽くしの歩みを続け ています。おそらくこの歩みはしばらく続くことになるでしょう。そのような中でヘブル書の御言葉に聴きたいと 願っています。
ですから、弱った手と衰えた膝をまっすぐにしなさい。また、あなたがたは自分の足のために、まっすぐな 道を作りなさい。足の不自由な人が踏み外すことなく、むしろ癒やされるためです。(ヘブル12:12〜13)
今のこの状況を的確に表現する言葉を持ちません。教会のあり方、礼拝のあり方、宣教のあり方が問われ ていることは確かです。しかし評価や断定をするにはいまだ十分な神学的思索が積み上げられていません。 今すべきは後の時代のために今なしていることを出来る限りありのまま記録を留めることでしょう。しかしそ のような中ではっきりしていることの一つは、「弱り、衰えているキリストのからだ」の現実です。私が属する日 本同盟基督教団では、昨年の諸教会の礼拝出席者数、献金収入、受洗者数はいずれも減。特に受洗者数 は2019年の275名に対して2020年は194名。2003年からの推移で250名を下回ったのは初めてのこ とです。恐らく数字に表れた以上の様々な影響が諸教会にはあるでしょう。
もともと多くの課題を抱える弱い教会が多い中、加えてこの一年、キリストの身体は立ち止まり、うずくまる ような時を過ごして来ました。礼拝はささげられ、祈りの手は挙げられ、様々な働きは続けられていますが、そ れでも多くのことから手を離し、足を止めなければならない日々を送ってきました。そのような中からまだ先の 見通しは定かでないながらも立ち上がり、歩み始めようとするときに、いきなり走り出すということはできない。 まずは弱った手と衰えた膝をよくマッサージし、ストレッチし、関節を動かし、筋肉を伸ばし、ゆっくり、そろりと 歩み出すことが必要なのだと思います。急ぎすぎない、慌てないということが大切です。今のこの時代の渦中 でじっと目を凝らし、祈りつつ思い巡らす必要があるでしょう。
ヘブル書12章3節は言います。
あなたがたは、罪人たちの、ご自分に対するこのような反抗を耐え忍ば れた方のことを考えなさい。あなたがたの心が元気を失い、疲れ果ててしまわないようにするためです。
元気を失い、疲れ果ててしまいそうになるとき、主イエスのことを考えようと語られる。しかもそれは私たちの 罪ゆえの反抗を耐え忍ばれた主イエスのお姿だと言い、この主の忍耐を見つめることで、私たちが元気を失 い、疲れ果ててしまわないようにと御言葉は招くのです。
主が私たちの弱った手を強め、衰えた膝をまっすぐに伸ばし、立ち上がらせてくださるのは何のためか。そ れは救いの完成に向けて、神の国の実現に向けての、困難の多い、険しい道も続く、決して容易ならざる信仰の馳場(はせば)を、それでもともかく走り出し、走り続け、走り抜くためでしょう。今年も諸教団、教会、宣教団体では 計画や予算が決定されて動き始めているでしょうが、すべて計画通りというわけにはいかず、早くも中止や延 期を余儀なくされているところもあるでしょう。出鼻をくじかれ、やる気も起こらず、落ち込むばかりということ もあるかもしれません。
それでもずっと座り込んだままというわけにはいきません。起き上がって動き出すために、主からの養いを 受け、疲れを癒やされ、こわばった関節を一つずつ伸ばし、よく可動域を広げ、こり固まった全身を十分にほ ぐして、ゆっくりと着実に歩みを続けていきたいと思います。そうして私たちが歩むことによって道が少しずつ 踏み固められ、やがて少しずつ走り出し、まっすぐな道となり、広げられていく。ここに教会が伝える道が整え られていくでしょう。
ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代がどうなるか分かりません。それをあれこれと想像することに耽る暇も ありません。むしろ分かっていることは、世界は福音を求めているという事実です。愛が求められ、平和が求 められ、和解が求められ、自由が求められ、喜びが求められ、慰めが求められ、希望が求められています。 この道を伝えるために召された私たちは、自らが歩み、歩むことで道を作り広げていくのです。弱った手と衰えた膝をまっすぐにし、主の手に引かれながら進む私たちでありたいと願います。
東京基督教大学 国際宣教センター 日本宣教リサーチ【Japan Missions Research】
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日本宣教リサーチ代表 山口 陽一(東京基督教大学学長)
日本宣教リサーチ研究員 柴田 初男