女性政治犯を扱った台湾映画『流麻溝15号』とキリスト教 藤野陽平 【この世界の片隅から】

2022年、台湾で映画『流麻溝15号』が上映され話題となった。『流麻溝十五號:綠島女生分隊及其他』という書籍を映画用にアレンジしたもので、台湾で初めて女性政治犯を主役とした映画であり、原作者・曹欽榮の綿密な調査による史実に基づいた作品だ。英語タイトル『UNTOLD HESTORY』のとおり、1950年代の「白色テロ」被害者の語られてこなかった歴史を伝えている。

舞台となるのは台湾東部の離島、緑島で、ここには1951年に政治犯を収容し思想改造を行う監獄、新生訓導処が作られ、最も多い時には2000人ほどの政治犯が収容されていた。その中にも女性分隊(ここでは軍隊の形式で人々が編成されたため、120~160人ごとに「分隊」と呼ばれ、その上には三つの大隊があった)も設置され、100人ほどの女性政治犯が収容されていた。

多くのシーンが実際に緑島で撮影され、当時の労働や生活の様子もリアルに描かれている。今日ではこの場所に「国家人権博物館白色テロ緑島記念園区」という施設が作られ、1951年から1965年に使われた新生訓導処と、1972年から1987年に戒厳令が解除されるまで政治犯を収容した国防部緑島感訓監獄(通称=緑洲山荘)が公開されている。

本作では主人公3人の女性政治犯のうち、厳水霞という女性が登場する。彼女は台湾北部にキリスト教を伝えた宣教師、ジョージ・レスリー・マカイが設立したマカイ記念病院の看護学校を出た看護師で、クリスチャンである。誠実で芯のある性格の彼女はもう一人の主人公、冤罪で5年の懲役に処された女学生、余杏恵に英語を教えるのだが、その際に聖書がテキストとして使われ、作中では「霊のない体が死んだものであるように、行いのない信仰もまた死んだものです」(ヤコブの手紙2章26節)という箇所も登場する。

本作は戦後台湾社会の闇の部分に光を当て、キリスト教的価値観とも共鳴するため、同じく社会問題に関心を寄せ台湾アイデンティティの強い台湾基督長老教会の228事件76周年記念活動として、各地の教会で上映会が行われた。私は3月11日の台北東門教会での回に参加したのだが、来場者らの食い入るようにスクリーンに向ける眼差しは印象的だった。

4月15日に行われた東京上映会に登壇したプロデューサーの姚文智氏(左)と原作の曹欽榮氏

日本では2024年の上映を予定しているそうなので、もう少し待たなければらないが、すでに大阪(4月10日)と東京(4月12日、15日)で先行上映会が開かれている。4月15日、台北駐日経済文化代表処台湾文化センター主催の「台湾映画上映&トーク」では、事前申し込みがたった数分で定員を突破したというので、日本からも注目されているようだ。

近年、注目を集めている台湾であるが、日本からの台湾理解は正直おぼつかない。特にこの戦後の悲しい歴史については、ほとんど知られていないのではないだろうか。日本のクリスチャンにはぜひ観ていただきたい作品だが、そうでなくても台湾に関心のある人であれば必見だろう。本作を通じて、日台の相互理解が進むことを期待したい。

藤野陽平
 ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。

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