【東アジアのリアル】 高雄市長リコールから振り返る「光復高雄」の背景 藤野陽平 2020年8月1日

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 6月6日、台湾第2の都市・高雄市の韓国瑜市長へのリコール選挙が行われ、不同意の2万2051票を大きく上回る93万9090票の同意によって罷免された。庶民派のイメージによって人気を集めていた韓氏は2018年11月の市長選挙で当選したが、就任直後に総統選挙への出馬を表明したことで市長の職務の放棄と受け止められ、リコールへとつながった。

 この間、市長の罷免を求める人々の間で「光復高雄」(高雄をとりもどせ)というスローガンが飛び交った。南部の中心地高雄は現与党民進党の牙城であり、文字通り野党国民党に奪われていた市長の座を取り戻そうという意味である。

市長在職時にはキャラクター化され、高雄土産としても親しまれた韓氏であったが……

 では、どうしてこの都市が民進党の地盤となったのか。それには40年ほど前にここで発生した美麗島事件(高雄事件)という事件の持つ意味が大きい。1979年12月10日、国際人権デーにあわせて発生したこの事件では、戒厳令下にもかかわらず集まった10万人ものデモ隊とそれを取り締まる官憲とが衝突し、多くの逮捕者を出した。この時、検挙された人々の中には後に民進党のリーダーとなるものも少なくなく、それまでくすぶっていた台湾の民主化運動は、これ以降急激に勢いを増していく。

 この事件は民主化運動だけではなく、多くの長老教会関係者が参加するなどキリスト教と社会運動の関係においてもその意義は大きい。例えば逮捕者の中には長老教会の牧師林弘宣、蔡有全、許天賢らや、カルバン神学校の校長林文珍らが含まれていた。特に1980年4月24日に総幹事の高俊明が、事件の中心人物の一人施明徳を匿ったため、逮捕されたことは国際的にも注目を集めた。

 1947年に発生し数万人が犠牲となった二二八事件を台湾人に連想させる2月28日には、事件に関わり逮捕されていた弁護士林義雄の自宅が何者かに襲撃され、母と双子の娘が刺殺されるという事件が起きる。当時、林義雄宅は24時間監視下にあり、白昼堂々の犯行であったにもかかわらず、犯人が見つかっていないなど不審な点が多く、国民党政府による白色テロであるとみられている。その後、林家を支援するために、長老教会は事件現場の林家を買取り、義光教会という名の教会とした。義光教会は毎年2月28日に追悼礼拝を行い、台湾の民主化運動の「聖地」の一つとなっている。

 なお、後に民進党の党主席を務める施明徳、林義雄の両名ともキリスト教徒ではない。当時の長老教会はキリスト教信仰にかかわらず、助けを求め延ばされた手を握ったことになり、これ以前は民主化運動を行ってきた党外人士と呼ばれるグループと長老教会は別々に運動を行ってきたのだが、この事件を境に両者は歩調を合わせていく。今日の台湾人アイデンティティの強いグループと長老教会の密接な関係性は40年前高雄で起きたこの事件にルーツがある。

 新市長を決める選挙は8月15日に行われる。民主主義を求め闘ってきた台湾のキリスト教徒たちの歴史にも思いを馳せながら投票の結果を見守ってはいかがだろうか。

長老教会は凄惨な事件現場を義光教会とすることで林家を支援した。

藤野陽平
 ふじの・ようへい 
1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学―社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。

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