ウクライナの平和を願う祈祷会から 松山健作 【東アジアのリアル】

韓国基督教教会協議会(NCCK)は、3月4日に大韓聖公会ソウル主教座聖堂のフランシスホールで、「ウクライナの平和を願う祈祷会」を開催した。

祈祷会では、ウクライナ出身のエレナ・シェーゲル教授(Olena Shchegel、韓国外国語大学)が現場の状況についての証しを行った。

エレナ教授は、ロシアによる武力侵攻によって、ウクライナに残る家族、住民は非常な恐怖に陥れられたことを報告した。また「ウクライナの人々は決して、ロシアに屈服しない」とした上で、ウクライナの愛国歌に「大切にしている自由のために私たちの魂と肉体をささげる」という歌詞があることを紹介し、「ウクライナの人々は、自由のために最後まで戦うが、しかし他国の支援がなければ滅びるだろう」と強調した。

またエレナ教授は、ロシア軍が砲撃するチェルノブイリだけでなく、ヨーロッパ最大のザポリージャの原発についても言及。攻撃が続き原発に被害が出れば、チェルノブイリの10倍の被害では済まないと語った。核爆弾の使用も懸念される一方で、原発への砲撃は、現地住民や近隣諸国における恐怖となっている。

祈祷会においては、韓国正教会アンブロシウス大主教が説教を担当した。

大主教は「昨今、ロシアがウクライナにおいて強行に攻撃し、人権を蹂躙している。ウクライナでは、第二次世界大戦以後80年ぶりの最も大きな衝突である。ロシアは交渉のテーブルに核兵器というカードを出した」「韓国は朝鮮戦争の悲劇を経験した。そのため、韓国キリスト者は一つとなり、ロシアの侵攻を糾弾しなければならない。戦争より大きい罪はない」と発信した。

また大主教は、「正教会総主教に対してウクライナの平和のために祈ることを要請した。ウクライナで始まった悲劇的な戦争は、この上ない非難を受けるにふさわしい。理想より不合理、愛より憎しみが支配している。戦争が終息することを呼びかける。すべての暴力行為が中断されることを訴える」と、平和への思いを語った。

アンブロシウス大主教の説教

NCCK総務の李鴻政(リ・ホンジョン)牧師は「朝鮮戦争の惨禍を記憶し、戦争なき朝鮮半島へ心から願い、ウクライナの平和のために祈る」とし、世界的な次元における市民の連帯を要求し、政治家や平和運動家などの地域的な連帯により、平和を実現する世界の構築を呼び掛けている。

この祈祷会で印象的なことは、36年間、「日本帝国」によって侵攻と支配を経験した韓国が、その経験については触れず、民族間における朝鮮戦争の事例を取り上げた点である。

ロシア軍の侵攻は、朝鮮半島の人々にとっては、日本軍による植民地支配を思い浮かべる人々が多いだろうと推察される。一方で国際情勢を鑑み、日本への批判は避けたのだろうか。朝鮮半島の歴史上最大の衝突である朝鮮戦争における痛みが、ウクライナ情勢と重ね合わされたということである。

いずれにせよ、主によって創られた被造物のいのちが何よりも大切にされ、世界を取り巻くウクライナ情勢が一刻も早く平和的に収束することを願いたい。

痛みを生んだ日本における歴史的な反省から、今なお南北分裂により傷んでいる朝鮮半島を思い起こし、また東アジアにおける同様の苦しみを受けた人々との連帯によって、尊い命を奪わない平和な世界が作り出されることを祈っている。

 

松山 健作
まつやま・けんさく
 1985年、大阪府生まれ。関西学院大学神学部卒、同大学院博士前期課程、韓国延世大学神学科博士課程、ウイリアムス神学館修了。現在、日本聖公会京都教区司祭、金沢聖ヨハネ教会牧師、聖ヨハネこども園園長、『キリスト教文化』(かんよう出版)編集長、明治学院大学教養教育センター研究員など。

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