7月11日、世界平和統一家庭連合の会長の記者会見をテレビ各局も中継した

会見の主な内容は、①山上容疑者は当法人の信者ではない、②母親は1998年頃から当法人の信者であり、1か月に1回程度の頻度で教会の行事に参加してきた、③母親が2002年頃に経済的に破綻していたことは知っていたが、献金の額は本人の信条に基づいて決めるものでノルマではない、など。安倍元首相と教団との関係については、友好団体「天宙平和連合(UPF)」が主催する世界平和運動に賛意を示しメッセージをもらったことはあるが、安倍氏は当法人の会員でも顧問でもない、とした。

しかし、伝えられてくる山上容疑者の供述からは、統一協会をはじめとするカルト宗教に家族がのめり込んだ家庭で繰り返されてきた家族崩壊の問題が見えてくる。山上容疑者は警察の取り調べに対し、「母親が(統一協会に)多額の献金をして破産した。破産した後も金を納め続け許せなかった」などと供述しているという。捜査関係者の話として、一家は借金苦のため容疑者と兄、妹は疲れ果て、大病を患った兄は自殺に追い込まれた、とも報じられている(文春オンラインほか)。

霊感商法被害救済担当弁護士連絡会事務局長の渡辺博氏によると、最近の平和家庭連合をめぐる被害相談のほとんどが献金をめぐるもの。「あなたの先祖が地獄で苦しんでいる。良い行い(献金すること)で先祖を救える」などとしてすべて差し出すよう求め、借金をさせられることもある。借金を返せずに自己破産するケースが相次ぎ、昨年の相談47件、被害総額3億3千200万円のほとんどは献金をめぐるトラブルだという。

一方、この国の保守政治家と統一協会の関係は古くから続いており、安倍元首相とのつながりも深い。2019年11月には「HARBOR BUSINESS ONLININE」が、当時の安倍政権の10人以上の閣僚が統一協会と関係があることを報じた。安倍氏自身は、統一協会の創立者である故・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が存命中の2012年以前から、たびたび関連団体の会合に祝辞を送るなど親密な関係を続けてきた。

昨年9月には、関連団体UPFが開催した大規模イベント「神統一のためのTHINK TANK2022希望前進大会」に、安倍元首相はドナルド・トランプ前米国大統領とともにビデオメッセージで基調講演。「このたび出帆したTHINK TANK2022の果たす役割は大きなものがあると期待しております。今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(ハン・ハクジャ)総裁をはじめ皆さまに敬意を表します」と賞賛した。

昨年9月、統一協会の関連団体UPFのイベントで基調講演した安倍元首相

さらに「UPFの平和ビジョンにおいて家庭の価値を強調する点」を高く評価し、「家庭は世界の自然かつ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っているのです。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」などと持論を展開。「情熱を持って戦う人が歴史を動かすのです。自由と民主主義の価値を共有する国々の団結が、台湾海峡の平和と安定のために、そして朝鮮半島の平和統一を成し遂げるためには、とてつもない情熱を持った人たちによるリーダーシップが必要です。この希望前進大会が大きな力を与えてくれると確信しています」と持ち上げた。

だが「平和」「家庭」といった美しい言葉とは裏腹に、統一協会をめぐって苦悩の淵に追い込まれてきた家族の嘆く声は、異端・カルト被害者のカウンセリングに取り組んできた牧師や弁護士らのもとに、あまりに多く届いている。

これまでにも、狂信的なカルト信者が批判者を敵視して殺人や襲撃などのテロ行為を起こす事件は相次いできたが、今回は宗教団体によって家庭が破綻に至ったといういわば「被害者側」の人間が、逆恨みから殺人を犯したという前代未聞の重大事だ。どんな理由であれ殺人が正当化されることはあり得ないが、宗教トラブルをめぐる家庭破壊から元首相の暗殺という結果に至ったことは、そのような問題を抱える団体と政権与党の政治家らが長年にわたって癒着してきたことも含めて、闇の深さを浮き彫りにしたと言えよう。

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