強制結婚を恐れるパキスタンのキリスト教徒 パンジャブ州裁判所の判決は新たな希望か

教会指導者と人権専門家が、結婚の法定年齢の引き上げは未成年者の保護に適正かどうかをめぐり「クリスチャニティ・トゥデイ」紙上で意見を述べた。

2017年から2018年のデータによると、パキスタンの少女のほぼ5人に1人(18.3%)が18歳未満で結婚しており、その半数以上が子どものころに妊娠している。こうした女児の多くは、キリスト教やヒンドゥー教を信仰しており、大多数(96.5%)がイスラム教徒であるパキスタン人口の3.5%を占めている。

政府は公式に児童婚を禁止しているが、差別的な法律と法律施行の欠如により、この慣習は根強く残っている。ほとんどの児童婚は家族によって取り決められるが、毎年推定1000人の少女が誘拐され、イスラム教に改宗させられ、誘拐犯と強制的に結婚させられている。こうした子どもの花嫁は、妊娠に関連した健康合併症や妊産婦死亡のリスクが高まる。

ラホール高裁による最近の判決は、パキスタンの少女たちを守ろうとする擁護者や教会の指導者たちに、新たな選択肢を提供する可能性がある。同高裁は4月、1929年に制定された「児童婚禁止法」のうち、女子の最低婚姻年齢を16歳、男子の最低婚姻年齢を18歳と定めた規定を取り消した。この児童の定義を「差別的で違憲」とみなし、裁判所はパンジャブ州に対し、男女ともに最低年齢を一律18歳とする法改正を指示した。

判決は、パキスタンが憲法で保障する男女平等と女性と子どもの権利保護を引用し、思春期の妊娠が15歳から19歳の少女の主な死因の一つであることを示すデータを示した。

シャヒード・カリム判事は、「私たちは国家として、すべての主要な指標においてひどく遅れをとっており、人口の半分がその潜在的可能性が未開発のままである中、若くして出産で失われることはありえない」「女性に平等な機会を与えることは、男性と同様に結婚を制限することを意味する」と指摘。

パンジャブ州が男女ともに18歳を最低結婚年齢として採用したパキスタンの四つの州のうち2番目の州となるにつれ、擁護者たちは、既存の法律に違反した人々に対する罰則を強化し、執行しようとする課題に直面している。

先月の判決の直後、パンジャブ州議会は、児童婚に関与する成人と、そのような結婚を斡旋する者(親や保護者を含む)に厳罰を科す法案を提出した。違反者は、2年以下の懲役、または200万パキスタン・ルピー(約7200米ドル=約110万円)以下の罰金に処せられる可能性がある。

多くのキリスト教徒やその他の宗教的少数派グループは、このような法律を支持し、裁判所の判決に感謝しているが、誰もがその有効性に同意しているわけではない。「クリスチャニティ・トゥディ」紙は4人の指導者に、強制結婚や改宗を抑制する上で法制度が有効かどうかを尋ねた。彼らの回答は、「ノー 」から 「たぶん」、そして 「イエス 」の順に並んでいる。

アッシャー・サルフラズ氏(貧困にあえぐ子どもたちのためのミニストリー「クリスチャンの真の精神」チーフ・エグゼクティブ)

 ラホール高等裁判所の決定は、勝利のように聞こえるかもしれないが、社会の変化なしには不十分。司法レベルで一つの命令を通すだけでは何も変化をもたらさない。なぜなら、その命令は法執行機関によって実行されなければならないからだ。法執行機関が変化を実行に移し、被害者家族が安心して苦情を訴えることができるようにし、公平な手続きに従って正義が下されることを保証しようとしないのであれば、いくら判決を下しても変化にはつながらない。

児童婚はパキスタンの文化に強く結びついており、この古くからの連鎖を断ち切るには、人々の考え方だけでなく、法を守り、公平な行動を遂行しなければならない法執行当局のさまざまなレベルにおいても、全面的な転換が必要である。したがって、強制改宗や強制結婚の裁判へのインパクトはないと私は考える。

2014年、パキスタンの最高裁判所は政府に対し、宗教的寛容を促進する連邦タスクフォースを組織し、憲法の下で少数派に与えられている権利と保護措置を監視する評議会を設置するよう義務付けた。しかし、10年経った今でも、それは完全には実施されていない。

パキスタンで児童婚を容認できないようにするには、国民を教育し、裁判官や役人を訓練し、児童婚を正当化する宗教的信念に異議を唱えることが必要である。この悪質な慣習に終止符を打つには、政府、市民社会、そして全国のコミュニティが一体となった多面的な取り組みが必要である。

ルビー・ナイーム・ジョン氏(ベテル伝道団体共同ディレクター)

 児童婚抑制法への変化が強制結婚を防ぐかはわからない。法律を変えるだけでは変化は起きないと思うからだ。人々のメンタリティーも変えられなければならない。

一般的に、パキスタンの教会は家庭宣教を通して家族を強め、弟子とする必要があり、教会はクリスチャンの家庭に対して、未成年の娘を結婚させたり、息子を未成年の少女と結婚させたりすることの結果について、もっとよく教育しなければならない。

残念なことに、ここ数十年、クリスチャンの男子は教育を優先してこなかったため、経済的に弱小になってしまった。時には、クリスチャンの未成年の女の子が彼女たちの経済的未来が守られるがゆえにイスラム教徒の男性と結婚したがることもある。私たちは、クリスチャンは自分たちの行動に責任を持つことを学ばなければならず、すべてを強制改宗のせいにするべきではない。

未成年の少女が誘拐され、強制改宗させられているケースが実際に存在すること、そして今後、法律が厳格に施行されれば、この犯罪が抑制される可能性があることには同意する。

ピーター・ジェイコブ氏(リサーチ&アドボカシー団体「社会正義センター」事務局長)

私たちは、1929年に制定された児童婚抑制法から約100年後に下されたこの新しい判決を歓迎する。この判決は、女性、特にマイノリティの人々の権利を守ろうとした先進的かつ歴史的なものだ。

誘拐されたり、自ら進んでイスラム教徒の男性と逃亡し、改宗して結婚する女性の70%以上が未成年である。この法律が文面上も精神上も実施されれば、強制改宗の防止に役立つだろう。

法律があることの利点は、少なくとも人々が法と正義に頼ることができるということだ。つまり、法律はそれ自体で効力を発揮するものではない―それはただ抑止力としてはたらくということだ。裁判官はそれを知っており、弁護士もそれを知っており、その意識は間接的に法の実施に寄与している。とはいえ、違反があった場合には、法の手続きの中で裁判にかけられなければならない。

この法案は、少なくとも、正しい方向への一歩である。すべての法的手続きが完了し、法律として成立するまでは、誰もこの法案を使って結婚に異議を唱えることはできないとしても。しかし、このような法案が存在するだけでも、少なくとも説得力はある。

ユニセフによると、パキスタンでは1890万人の少女が18歳になる前に、460万人が16歳になる前に結婚している。16歳未満の少女と結婚することは、すでに法律違反である。これらの違反はすでに起こっており、現行法を行使することで阻止することができる。

アズハル・ムシュタック氏(パキスタン聖書協会書記長)

提案された法律が施行されれば、未成年者、特に12歳や14歳の少女が関与する強制結婚という非難されるべき慣習に根本的に対抗することができる。このような多感な年頃の子どもたちは、脅しや結婚の強要によって簡単に服従させられてしまう。法律は、このような重大な決断を下すには、18歳の方が発達上ふさわしいと認めている。

しかし、大人であっても結婚へと騙されたり、強要されたり、誘拐されたりする可能性があるという厳しい現実がある。そのため、この法律がすべての事例を根絶することはできないが、その中心的な目的は、社会的弱者である無垢な子供たちが搾取され、形成期を奪われることのないよう、法的な保護措置を設けることである。

現在の司法措置や監督にもかかわらず、悪質な業者は詐欺的な影響力を行使して未成年の少女を脅迫し、圧力をかけ、実際には心の中に持っていない同意を偽って公言させることがいまだ可能である。この法律は、このような反吐が出るような強要から、これらの脆弱な若い命を守るセーフガードとなるよう努めるものである。

パキスタンにはこの法律の施行が困難な地域があることは否定できない。これらの地域は影響力のある個人によって支配されており、法執行機関は彼らに対して無力である。これらの地域の大衆は、法律を無視して自分たちの気まぐれに従って行動している。

しかし、この法律は、許しがたいことを認識し、それに対抗するための重要な進歩を示すものであり、このような時代遅れの忌まわしい結婚慣行によって搾取されやすい人々の盾となることを望むものである。

(翻訳協力=中山信之)

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