仏教伝道協会主催のシンポジウムで奥田知志氏「『自分病』の重症化」危惧

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仏教伝道協会主催の第26回BDKシンポジウム「宗教の未来を話そう2021――ポストコロナの宗教のゆくえ」が11月6日、仏教伝道センタービル(東京都港区)とオンラインをつないで行われ、NPO法人抱樸理事長の奥田知志氏(日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師)が、吉水岳彦(がくげん)氏(浄土宗光照院住職)、作家の田口ランディ氏と共に講演した。

「人と社会をつなぐために宗教者ができること」と題して講演した奥田氏は、1901年に内村鑑三が書いた「既に亡国の民たり」と題する文章の1節を引用し、「民に相愛の心なく、人々に互いに相猜疑し、同胞の成功を見て怒り、その失敗と堕落とを聞いて喜び、我一人の幸福のみを思うて他人の安否を顧みず、富者は貧者を救わんとせず」という殺伐とした世相がコロナ後の現代にも通じると指摘。

特に、2020年度に行われた調査から、コロナ禍で住居を失った困窮者の緊急避難先として、教会もお寺もほとんど活用されなかったことに触れ、改めて宗教者の役割について提言した。

また、コロナ禍が教えてくれたこととして、「ひとりでは生きていけない」「全員が当事者になった」ことなどを挙げ、自国第一主義の傾向を「『自分病』の重症化」と表現。「福音書に記された5000人の給食の物語は、『人に分け与えたら減る』という概念を覆した。教会は『すべての民に与えられる』と約束されたクリスマスの喜びを、『クリスチャンに与えられる』と読み替えてきたのではないか」と指摘した。

さらに、教会の守備範囲がいつの間にか「心の問題」だけに限定されてしまったことを憂い、「すべてのいのち」を対象にしつつ、「いのちのすべて」と関わっているか、と問いかけた。困りごとの解決や罪の赦しなどの「問題解決型」は、結果が出ないと意味をなさないが、共にいる、つながること自体が救いという聖書の概念に立脚すれば、相談窓口にたどり着いた人だけを助ける「支援者目線」から、「ひとりにしない」という「支援伴走型」への転換が必要と訴えた。

続いて、「ひとさじの会」で炊き出しなどを通し、困窮者支援に携わってきた吉水氏が「仏教の視点から行う社会貢献活動」と題して講演。「コロナ禍の社会を振り返った時、そこで取り沙汰された問題の多くが、コロナ禍以前から存在し、露見したものであることに気づかされた」とし、「経済・利便・効率を優先する時短推奨の価値観」「つながりの希薄化と孤独の苦しみ」「分断・差別と断罪・排除」などについて言及。

ありのままで受け入れてくれる居場所に出あうこと、孤立で苦しむ人が駆け込める場所にアクセスすることがさらに困難になった現状に対し、仏教者が寄与する社会貢献のあり方として、「心を寄せ、声をかけ、話を聴くこと」「修養の場を含む、誰もが居ていい場の構築」「亡き大切な人とのつながりを支える」「わが身のいたらなさを理解しておくこと」などを提示した。

田口氏は「宗教なき信仰のかたち」と題し、さまざまな宗教者との出会いを経ながら、長く祈りや信仰についての解を得られずに来たという自身の遍歴を紹介。弱者救済に尽力してきた宗教者を「崖から飛び降りた人」と評し、「神を信じたいが、いまだにその言葉を語る人々に気持ち悪さを感じながら、羨望も覚える」という複雑な心境を打ち明けた。

また、「無宗教は、無信仰ではない」と考えるようになった背景として、水俣で出会った患者や、マサテコ族のシャーマン、「森のイスキア」の佐藤初女氏らの言葉を紹介。「私は宗教をもっていない。でも信仰は持っている。特定の神を信じられない。でも、神を信じる人たちを信頼している。それぞれのビリーブ・システム、あらゆる分断を越えて、共に生きる、信頼し合うのが宗教の未来。宗教の役割は今後さらに重要になる」と強調した。

(左から)登壇した吉水、田口、奥田の3氏

後半のクロストークで、改めて「ポストコロナ時代における宗教の役割」を問われた3氏は、それぞれ「すべてのいのち。いのちのすべてにつながり仕える」(奥田)、「現世のしがらみを超越して人を行動へと駆り立てる」(田口)、「善き友となる」(吉水)と回答。

奥田氏は、深刻化する「8050問題」を例に「家族の機能をいかに社会化するかが課題。新しい家族の形は『質より量』。それを宗教が中心に担って作っていくことはできないか」と語った。

さまざまな宗教や教会が連携して人を支えていく可能性について語り合う中で吉水氏は、信徒を所有物のように考えてしまう檀家制度の弊害についても指摘。これには田口氏も賛意を示し、「開かれた宗教であってほしい」と期待を込めた。

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