「ニュース女子」裁判〝勝訴〟で会見 差別なくすための法整備を 「のりこえねっと」共同代表 辛淑玉氏 〝大衆〟が敵になる恐怖語る

同じ人間として生きたいだけ
判決は憎悪の暴発を押し止める「ビンの蓋」

「長い、長い、負けてはいけない闘いでした」――時折、声をつまらせながら〝勝訴〟の報告をしたのは、反レイシズムを掲げる市民団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏。沖縄県の反基地運動を扱った東京MXテレビの番組「ニュース女子」をめぐり、制作したDHCテレビジョン(現・虎ノ門テレビ)と司会の長谷川幸洋氏(東京新聞元論説副主幹)を訴えた裁判で、550万円の損害賠償と謝罪文掲載を命じる判決が最高裁で確定したことを受け、5月1日、都内で記者会見を開いた。

2017年に放送された同番組は、東村高江のヘリパッド建設反対運動について「過激」な暴力や犯罪行為が横行し、辛氏らが経済的な支援でそれらをあおっているなどと名指しで報じた。一審東京地裁は、十分な裏付け取材がなく、辛氏の名誉を傷つけたと認定。二審もそれを支持したが、長谷川氏に対する請求は認めなかった。

5年超におよぶ裁判がようやく終結したものの、辛氏の表情に晴れやかさは見られなかった。番組放送後、インターネットなどを通じた誹謗中傷や脅迫が殺到し、ドイツへの一時避難を余儀なくされた。かつては右翼的な団体・個人などが相手だったが、それ以来、日常的に目に見えないすさまじい数の〝大衆〟が敵になったと実感したという。「死なずに持ちこたえられたのは、医者の力を借りたから。強く明るく堂々と闘うことができなかった。それでも、ひれ伏して生きるより、震えながらでも立って生きたいと思った」。訴訟中、一時も心休まることはなかった。

MX側はBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会による勧告なども受け、2018年に謝罪した。しかし、沖縄の平和運動に取り組む人々にも謝罪すべきだと辛氏。会見では、「裁判が終わっても、嫌がらせがやむことはない。ネット上のガセネタと妄想を寄せ集め、地上波で放送し、それらにお墨付きを与えた罪は大きい。大切な人のために人殺しをしない社会を作りたいとい思いで闘い続けている人々を愚弄した」と改めて非難した。

また、この間のヘイトクライムの背景について「沖縄と在日への差別に加え、ミソジニー(女性嫌悪)もある。生意気な朝鮮人女性の口をふさぐことが、彼らにとっては気持ちのいい娯楽。差別は金になる。この社会を覆う差別ビジネスを放置してはいけない」とし、レイシズムを取り締まれない法律の不備も指摘。

「インターネットの時代、一人ひとりがSNSという武器を持った以上、標的となった弱者は散弾銃でハチの巣にされかねない。ドイツではヘイトクライムに多額の懲罰金が課せられている。日本で法律ができないのであれば、せめて第三者機関のような歯止めを早急に検討しなければならない。今こそ止めるチャンス」と危機感を募らせた。

会見する(左から)佃克彦弁護士、原告の辛淑玉氏、金竜介弁護士

入管法をめぐる審議についても言及し、「入管問題の根底には朝鮮人差別がある。移住者に対する『技能実習生』という扱いも、徴用工の問題と同根。この国に欠けている人権に対する感覚を、どう育てていくのかが問われている。朝鮮人を助けてほしいと言っているのではない。同じ人間として一緒に生きていきたいだけ」と強調した。

また、世界的にまん延する排外主義の流れとの関係について問われると、辛氏は「どの国にも差別やヘイトクライムはあるが、日本と決定的に違うのは、それらに反対の声を上げ、対抗する市民が必ず立ち上がること。移住者や朝鮮人、沖縄やアイヌの人々は『炭鉱のカナリア』。日本ではマジョリティの間でまだまだ危機感が希薄だが、すでにぎりぎりのところまで来ている」と答えた。

辛氏が共同代表を務める「のりこえねっと」は同日発表したメッセージで、「『台湾有事』が声高に叫ばれ、敵基地攻撃能力という先制攻撃能力を自衛隊が持つことに人々の意識が向かう中、Jアラートの不快な警告音が戦争への不安を搔き立てています」とし、差別と憎悪がより大きな暴力を誘発する可能性に懸念を示した。さらに、今回の判決を「増幅しつつあるマイノリティへの憎悪、民族差別、盲目的愛国心、疑心暗鬼、陰謀論、反知性主義などの暴発を押し止める『ビンの蓋』」とし、「真実にもとづく冷静な論理と正義こそが重要であること」を示す第一歩として、「ジャーナリズム本来の使命を取り戻し、沖縄での反戦運動に力をあわせ、平和への祈りを確固たるものにしなければならない」と訴えている。

DHCテレビは2022年、親会社の買収を受けて解散。看板番組の「真相深入り!虎ノ門ニュース」も終了し、ウェブサイトも閉鎖されたため、判決が指示した謝罪文が掲載されることはない。

同日行われた報告集会には、多くの支援者が集まり、反差別の闘いを続ける決意を新たにした。ジャーナリストの津田大介氏は、テレビ局が放送番組をチェックする「考査」を最後の「砦」と表現し、「砦は崩れた」と指弾したBPOの意見書を引用し、問題提起としての訴訟の意義を強調。劣化を止められなかったジャーナリズムの力不足を悔いつつ、「地上波の番組はなくなっても、当時の出演者らは今もヘイト言説を垂れ流している。より深刻化している状況にどう向き合っていくかが、辛さんからバトンを受け取った私たちに問われている。今回、闘うための道筋をつけていただけた」とあいさつした。

関連記事

この記事もおすすめ