LGBT(セクシュアルマイノリティ)をテーマにした『LGBTとキリスト教──20人のストーリー』(日本キリスト教団出版局)が3月に刊行された。月刊誌『信徒の友』で2019年に連載されたものに8本の書き下ろしを加え書籍化されたもので、日本で初めて、同性愛者であることをカミングアウトしたうえで牧師となった平良愛香さん(日本基督教団川和教会、農村伝道神学校校長)が監修を務めている。
LGBT当事者を中心とした20人が、社会や教会における性的少数者の生きづらさを語ると同時に、教会に傷つきながらも、「ありのままの自分」を愛してくださる神への信頼と希望が綴(つづ)られている。それぞれの記事には、差別や偏見を解消するための取り組みなどコラム形式で紹介され、LGBTへの理解を一層深めてくれる書籍となっている。今回、同書の執筆者の一人である内田和利さんと、編集者の市川真紀さんに話を聞いた。
内田さんは大学時代に洗礼を受け、10年以上教会に通い続けたが、同性愛者であることを知った牧師に「治ったら戻ってきてもいい」と言われ、教会を離れることになる。その後カミングアウトしたうえで、LGBTに関する法的問題や格闘家の契約関係をあつかう弁護士として活動中。同書では、「法とLGBT――個が尊重される社会を実現するために」というテーマで語り、「自分を隠さずにいるために神さまが教会から切り離してくださった。……仕事をとおして神さまが働いてくださっている」と明かしている。
───はじめに、他の人の話を読まれてどのように思ったか教えてください。
内田:一人一人にそれぞれの体験があるなとあらためて感じました。その一方で、自分自身の内側にあるものが、他者をとおしてあらわれているところもあって、体験は違うけれども共通している部分もありました。LGBTの人が抱える大きな不安の一つに、好きな人がいても、結婚・出産という一般的な形を望めず、これからどう生きていこうかと将来像が描けないということがあります。そういう人たちにとって、この本の中でいろいろなセクシュアリティの人が登場し、語ってくれることは救いになると思います。
───個人的に印象に残ったところはありますか。
内田:区議会議員の石坂わたるさんがLGBT施策の中で心がけていることとして、「差別的な考えを持っている人や発言をする人を糾弾したり攻撃したりするのではなく、その人の気持ちを受け止めたうえで、相手に伝わりやすい言葉で返していく」と語っているのですが、私も心がけていることなので印象に残りました。
───この本を読むと、LGBTの人たちは、多様性に溢(あふれ)ていることが分かります。
市川:同性愛やLGBTについての神学的な本は割と出ているのですが、さまざまなセクシュアリティの当事者が生の声で語っている本というのは多分初めてだと思います。LGBTは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を並べたものですが、同書ではその4つのみを表しているのではなく、セクシュアルマイノリティの総称として使っています。
───そのように多様なLGBTですが、その多様さには目が向けられていないように感じます。LGBTへの関心が広がる中で、何か違和感を覚えることはありませんか。
内田:初対面の人からよく「ゲイっぽくないですね」と言われるのですが、世の中にはゲイ男性というステレオタイプ化されたイメージがあるように思いますが、実際は決してそんなことはありません。LGBTという共通点があるだけで、感じ方も違うし、価値観も違います。それは当然のことなのに、LGBTとなると人それぞれであることを忘れてしまう瞬間があるように感じます。
市川:ステレオタイプということに関しては、メディアの影響も大きいと感じます。セクシュアリティは非常に多様なはずなのに、マスコミに登場する人たちのイメージをそのままLGBTだと受け止められてしまうのは、メディアの取り上げ方にも問題があるのかもしれません。
───多様性という時、複雑な要素も含んでいるように思います。
市川:監修の平良さんも「差別は優しさだけでは克服できない。知識も必要になってくる」と書かれていて、LGBTのことはある程度は学ばないと分からないです。当事者も自分のことは分かっていても、他の当事者のことはよく分からないこともあります。
内田:知識が必要というところでいくと、性を構成する要素もさまざまだということがあります。代表的なものとして、生物学的性や出生時に割り当てられた性、性自認(自分自身の認識する性)や性的指向(恋愛感情や性愛感情の対象となる性)などの要素があります。そして、見た目では、その人の性自認や性的指向は厳密にはわかりません。また、一般には、性自認が決まれば、それによって性的指向も定まると捉えられがちです。性自認が男性なら性的指向は女性で、逆に、性自認が女性なら性的指向は男性であるというようにです。でも、必ずしもそうとは限りません。たとえば、トランスジェンダー男性(生まれた時に女性と割り当てられたが、性自認は男性)の場合、性的指向は女性と定まるとは限らないのです。性自認と性的指向は別の構成要素だからです。このように、性を構成する要素はさまざまあり、人によって異なり得るので、知識がないと理解しにくく、無意識に差別をしてしまうことが起きてしまいます。
───この本を一冊読むだけでLGBTに対する知識がだいぶ増えると思います。それも実体験ばかりですから、知識だけでなく考え方もかなり変わるのではないでしょうか。自分の教会にはLGBTの人はいないと思っている牧師や司祭に、ぜひ読んでほしいなと思います。
市川:カトリック東京大司教区東京大司教の菊地功さんと、インマヌエル高津教会牧師の藤本満さんがコラムを書いてくださってます。その中で菊地さんは、「その人の性的指向にかかわらず、その尊厳ゆえに尊重し、……心を配るべき」という教皇フランシスコの言葉を紹介し、藤本さんは、「LGBT否定は福音の神学的人間観と逆行する」とはっきり述べられています。福音派の方々にも読んでいただきたいですね。(後編に続く)