ドイツ人旧約聖書学者トーマス・レーマーによる『ヤバい神――不都合な記事による旧約聖書入門』(新教出版社、原題=Dieu obscur)の出版を記念するトークライブ「旧約聖書の神がヤバいってマジ!?」が6月25日、オンラインで開催された(キリスト新聞社主催)。
パネリストとして訳者の白田浩一氏(日本キリスト教団出版局編集者)と旧約学者の日高貴士耶(きしや)氏(日本基督教団代田教会伝道師、チューリッヒ大学神学部博士課程在籍中)が登壇し、司会を本紙編集長の松谷信司が務めた。
白田氏が著書を翻訳したのは、所属する国際基督教大学教会にレーマー氏が説教奉仕者として来日したことがきっかけ。その時の説教に感銘を受けた白田氏は、『ヤバい神』の英語版(表題=DARK GOD)で歴史的な聖書の読み方に出合い、2019年に再来日したレーマー氏に「可能であれば翻訳したい」と願い出たところ、二つ返事で「ぜひやってください」と言われたという。
同書は旧約聖書を歴史的状況・文化的環境を理解しつつ読み解く画期的な1冊。読者が読み飛ばしそうになる難解な箇所や現代の価値観では理解できない描写などを積極的に取り上げ、解釈することを試みている。その作業は聖書が語ろうとする内容をより一層鮮明に写し出すもので、執筆年代も場所も異なる現代の読者を聖書に近づける一助となる。一方そのような手法を快く思わない読者もいる。このことに白田氏は、「現代の日本人が古事記や日本書紀を新聞のように読むことはない。それと同じように聖書も歴史的背景を理解するからこそ一層面白くなる」と指摘。
レーマー氏について日高氏は、「フランス語圏旧約学を1代で、世界最高レベルにまで押し上げた驚異の研究者」と評価。レーマー以前のフランスの旧約学は信仰の書的な読解が傾向として強く、しかしレーマーの登場により旧約聖書が改めて歴史的な読み方をされるようになったという。日本ではあまりなじみのないレーマー氏だが、フランスの最高学府の一つであるコレージュ・ド・フランスでは学長を務めている。なお、コレージュ・ド・フランスでフランス人以外が学長に就任したのはレーマー氏が初めてである。
「学問的な読み方と信仰的な読み方に違いはあるか」との質問に白田氏は、「手紙のように受け取って読むことも大切。一方で難解な箇所––例えば先述の戦争や性差別の問題など––で躓(つまづ)くこともある。そのような時に学問的手法を用いて聖書を読むことにより、今まで不明瞭だった箇所が明快になり、ポジティヴな意味での『ヤバい神』の存在を知っていくのでは」と応答。日高氏は、「信仰は聖書の言葉を鵜呑みにするのではなく、聖書の言葉と正面から向き合い、ここで何が語られているのかと探求することから育まれる」と語った。
イベントの模様は下記YouTubeで視聴できる。