介護現場でのさまざまな人生模様をつづる『こちら陽だまり荘 介護士 美奈子の日誌』(日本キリスト教団出版局)は、著者・ないとうかずえさんの実体験に基づいたハートフルな介護マンガ。月刊「信徒の友」に掲載されていたものを書籍化したものだ。
ないとうさんは、1954年新潟生まれ、岩手県花巻市在住。73年に講談社増刊少女フレンド1月号に「亜子のしあわせ」でデビュー。その後18年間にわたって小学館の別冊少女コミック誌や、JUDY誌に漫画を掲載し、86年には、Judyコミックスより単行本『それから朝まで』『歌は歌われど』を発刊する。しばらくマンガの世界を離れ、高齢者福祉の現場で21間、介護士・相談員として働く。2010年に、その体験を基にした介護マンガの連載を「信徒の友」誌上で開始した。日本基督教団・土沢教会員。
同書は、介護福祉士の佐々木美奈子が、ディサービスと特別養護老人ホームの介護現場の日常をレポートするという形で綴(つづ)られていく。各エピソードは2ページほどで、「こちら陽だまりディサービス」編、「こちら特養 陽だまり荘」編合わせて48話と、番外編「ないとうかずえ物語」で構成されている。
施設利用者とのエピソードだけでなく、職員や、美奈子の家庭のエピソードなども盛り込まれ、介護現場を介してそれぞれの人たちの人生模様を、親しみやすいタッチで、暗くなりがちなテーマを温(ぬく)もりのある語り口で描いていく。介護職というとネガティブなイメージをもたれやすいが、美奈子が通う教会の牧師は次のように話す。
「介護はイエスさまの心ですね。皆、神様に愛されている。一人も見捨てない」(7ページ)
そんな介護の仕事を美奈子は、神様によって導かれた仕事と信じ、教会の礼拝や祈祷会で励まされながら続けている。その姿は、美奈子の高校生の娘・路花子にとって憧れで、将来の進路を「介護士」を希望するほどだ。まわりの友人に「汚いし、給料安いし、将来性ないし、偏差値の低い人がやる仕事」と陰口を叩かれてもその気持ちは揺らがない。人は、天職を感謝して全うするとき、光り輝いて見えるのかもしれない。
また、同書の中で印象的なのは、職員同士のミーティングの場面だ。一人一人の利用者についてどうすれば快適に過ごすことができるのかいつも意見を交換しあっているのだ。介護施設では、一人の職員ががんばるのではなく、チームで助け合い、支えあいながら仕事をしていくことが最も大切なのだと気付かされる。一人の人を介護することは、多くの助け手が必要で、これは身内の介護の場合でも例外ではないことを強く思った。
ないとうさんは、6年前に定年になり、現在は継続雇用で、特養の入所申し込みの受付や、介護保険の手続きなど事務の仕事を担当している。新型コロナウイルスの影響も受け、介護施設も困難な状況にある中、「あとがき」にはこのように記されている。
制度の不備や財源の問題もある中、きれいごとでない感情や行為がむき出しになる介護の現場で、そばにいて重荷を分かち合い、根気よく介入し続ける。そんな対人援助を目の当たりにする時、聖書の「実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ」というキリスト・イエスの言葉が私には迫って聞こえてくるのです。(117ページ)
ないとうかずえ『こちら陽だまり荘 介護士 美奈子の日誌』
2020年9月24日初版発行
日本キリスト教団出版局
1400円(税別)