韓国教会における自活牧会 李 相勲 【この世界の片隅から】

韓国プロテスタント教会に対して、どのようなイメージをお持ちだろうか。読者の中には、財政的に潤沢な大型教会を思い浮かべる人もおられるのではないだろうか。ソウルなどの大都市にそびえ立つ大型教会の建物を見たことのある人は、なおさらのことであろう。しかし、すべての韓国教会が潤沢な財政状態にあるのではない。数的に言えば、むしろそのような教会はマイノリティであると言える。実際、韓国教会の80%以上が未自立教会であるとする統計もある。

韓国プロテスタント教会は、1970年代以降に多くの新しい信者を獲得し、急成長を遂げてきた。開拓教会の中には教勢を伸ばし、大型化する教会も多く出た。その一つの象徴的な存在は、数十万人の教会員を擁する汝矣島純福音教会であろう。開拓・成長・大型化が牧会者の目指す一つのモデルとなってきたが、現在ではそのような時代は過去のものとなっている。21世紀に入って教勢が停滞するようになったからである。そうした中、牧会者の生活を支えることのできない未自立教会が増加し、自活牧会者が増えているのが韓国教会の現状である。

自活牧会者とは、牧師としての仕事とは別の仕事を持ちながら牧会活動をする牧会者のことである。韓国では、そのような牧会は「二重職牧会」「兼職牧会」「自備糧牧会」などと呼ばれ、日本では「自活伝道」あるいは「自給自活伝道」と呼ばれているが、本稿においては、「自活牧会」という用語を用いることとする。

韓国教会における自活牧会者はコロナ禍において急増したが、自活牧会に関する議論はそれ以前から活発になされてきた。最近では、今年6月に著名な牧師が自活牧会に対して否定的な発言を行ったことが契機となり、議論が起こっている。

2022年に韓国の牧会データ研究所は、大韓イエス教長老会(統合/以下、統合派)および大韓イエス教長老会(合同/以下、合同派)の牧会者のうち、出席教会員数50人以下の教会の牧会者400人を対象に実施した調査の結果を発表している。同調査によると、自活牧会を経験したことのある牧会者は48.6%であり、そのうち調査時に自活牧会を行っていた牧会者は31.7%であった。また調査対象者のうち、89.6%が自活牧会に賛成しており、その賛成理由の上位三つを挙げると、「経済問題の解決のため」「教会に依存せず信念に従って牧会することできるから」「キリスト者でない人たちの中に入って宣教的教会を実践することができるから」というものであった。

教会自立開発院の学術叢書『兼職牧会』

一方、自活牧会に反対する理由の上位三つは、「牧会・宣教の働きが疎かになることを憂慮するから」「牧会は聖職であるから」「牧会者としてのアイデンティティが揺らぐから」というものであった。

自活牧会に対する各教団の立場はどうであろうか。統合派や合同派、基督教大韓監理会(メソジスト)、イエス教大韓聖潔教会(ホーリネス)は条件付きで未自立教会の牧会者に許容し、基督教韓国浸礼会(バプテスト)と基督教大韓神の聖会(純福音)は容認している一方、大韓イエス教長老会(高神)や救世軍は許容していない。全体的には自活牧会許容の方向に進んでいると言える。

特に合同派内の動きを紹介しておくと、同教団傘下の総神大学神学大学院では、2023年度の春学期より、実践神学担当の教員によって自活牧会をテーマにした「宣教的教会と兼職牧会」との選択科目が新設されている。また2022年7月には、同教団傘下の教会自立開発院の学術叢書の第1巻目として、自給牧会に関する34の論考を収録した書籍『兼職牧会:牧会とはまた別の召命を論ずる』が刊行された。

自活牧会者が増える中、2020年11月には、韓国の主要プロテスタント教団に所属する自活牧会者およびその支援者を会員とする二重職牧会者連帯という組織が発足した。同会の定款には、「自活牧会が聖書的であり、キリスト教の伝統に符合する教会と牧会の一つのモデルである」とし、「自活牧会を時代と疎通する宣教、牧会的対案として提案する」と記されている。韓国教会の中には、自活牧会に牧会者(聖)と労働者(俗)といった二分法を崩し、各職場での働きを宣教活動と位置付けることで、新たな教会論や職制論の創出の可能性を見る向きもある。

日本にも自活牧会を実践されている方々がおられるが、自活牧会に関する議論が本格的に起こっている韓国教会と互いに学び合うこともできるのではないだろうか。

 

李 相勲
 い・さんふん 1972年京都生まれの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、関西学院大学経済学部教員。専門は宣教学。

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