教会が負担するのはどこまで? 大島有紀子 【教会では聞けない?ぶっちゃけQ&A】

Q.牧師の働きについて、その費用をどこまで献金でまかなうべきか悩むことがあります。何か基準がありますか?(60代・教会役員)

牧師と教会との関係については、民法の委任契約に関する規定が適用されます。民法650条1項で「委任事務を処理するに必要と認められる費用」は委任者である教会が負担することになります。前払いが原則ですが、別にルールを作ることを妨げません。

それと、家事消費との仕分けです。教会の車を日常も使用している、牧師館の費用を教会が負担しているなどの場合は、一定の割合は個人消費になりますし、牧師館の備品の修繕費など迷うことも出てきます。これは総合的に牧師の生活を支える謝儀のあり方を考えるなかでルールを作るべきで、こうしなければならないというものではありません。

さて、牧師の働きを必要なものとそうでないものに仕分けすることはなかなか難しいと思います。教会の教務に直接関係することはもとより、信徒以外にもひとたび教会から離れた方に対する通信や訪問に係る費用は原則として教会が負担すべきでしょう。

これに対して純粋に個人的な訪問や、また自らの趣味などで出かける場合は問題なく個人負担です。牧師が必要と考えても、教会員も社会的な活動を自らの費用で行っているのですから、一社会人としての行動は原則として牧師個人が負担することです。

他方、教会もさまざまな社会的な責任を負っており、社会的弱者への支援活動、平和運動や人権に関かかわる活動などを、教会の働きとして行うことがあります。教会がそのように決断すれば、それは教会の働きであって、経費は教会が負担し、牧師を支えることが大切です。

『レ・ミゼラブル』のミリエル司教のことが思い出されました。司教がジャン・バルジャンの魂を救うために贈ったあの銀の食器と燭台は司教館の備品ですが、仮に教会の財産であったとしたら法律的には神父の行為は委任事務の範囲内か否かが問題になります。その答えは、共に目に見えない成果を求める教会と牧師との信頼関係に求められることになるでしょう。

*本稿は既刊シリーズには未収録のQ&Aです。

おおしま・ゆきこ 弁護士。1952年東京生まれ。72年受洗。中央大学法学部卒業。84年に千葉県弁護士会へ登録。渥美雅子法律事務所勤務を経て、89年に大島有紀子法律事務所主宰となり現在に至る。日本基督教団本所緑星教会員。

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