刑務所からの出所者や薬物中毒に陥った人々への伝道を神からのミッションとして活動をしている進藤龍也牧師。出所しても帰る場所のない人、再起を本気で誓い、「やり直したい」ともがき苦しみながら、彼のもとに集まる人々は後を絶たない。彼らの更生までの道のりと暗い過去を「塀の中からハレルヤ!」として綴っていく。シリーズ第1回目は、10年近く進藤牧師の元に通いながら、再び転落の人生を歩み、その後、更生を誓ったカズさん(仮名・32歳)にインタビューした。
昨年、会堂を新築した罪人の友主イエス・キリスト教会(通称 罪友)。元ヤクザで、前科7犯の進藤牧師は、少年時代から非行に走り、18歳で暴力団の世界に入り、以降、傷害事件、薬物取締法違反などの犯罪を繰り返した。2001年、受刑中に差し入れられた聖書の言葉「わたしは悪人が死ぬのを喜ばない。むしろ悪人がその道から立ち帰って生きることを喜ぶ。立ち帰れ、立ち帰れ、お前の悪しき道から(エゼキエル33:11)」を読んで、改心。「刑務所から出所した人々の社会復帰までを伴走したい」と、神学校を卒業して以来、多くの出所者の支援をしている。現在は、全国の刑務所から届く手紙に返事を書き、講演活動に国内外を飛び回っている。
12年前、罪友教会のドアを初めて叩いたカズさん(32歳)も進藤牧師が支援する一人だ。カズさんは、幼い頃、両親が離婚。後に両親ともに精神疾患を患っていたことを知った。それでも、母親はカズさんを溺愛し、周りに助けながら育ててくれたという。
しかし、「なぜ、うちは普通の家庭と違うんだろう?なぜ、オレだけこんな目にあわなければならないなんだ!」と思っていたという。善悪の区別すらわからなかったカズさんは、少年時代から窃盗や喧嘩を繰り返し、何度も補導されていた。「そんな自分の姿を見て、母親は少なからず悩んでいたようだった」とカズさんは振り返る。
20歳の時、建造物侵入及び窃盗の罪で逮捕。「さすがにこの時は、反省した。何とか人生を立て直さなければと思った」という。母の世話をしていた知り合いの一人がクリスチャンだったことから、進藤牧師を紹介され、手紙を書いた。裁判の日、進藤牧師が情状証人として出廷してくれたという。
出所直後から、罪友教会に住み込み、平日は解体業などの肉体労働、日曜日には教会奉仕など、聖書の学びも積極的にしていた。「趣味のラップで伝道をしたい」などの思いも芽生えていた。
住み込みを初めて3か月後には、洗礼を受けた。苦労しながらも育ててくれた母も、カズさんが変わっていく姿を見て、洗礼に導かれた。「最高の親孝行ですね」と声をかけると、「そうですかね…」と照れたような笑顔を浮かべた。しかし、母も数年前に他界。天国へと旅立っていった。
順調にクリスチャンとして、信仰の歩みを進めているように見えたカズさんだったが、今から8年前、大きな落とし穴にはまってしまうことになる。
解体業をしながら、趣味のラップをしていたある日、飲食店で知り合った友人が失業をして困っていたのを耳にした。結果的に、この友人とトラブルを起こし、眠っていた人への憎悪が一気に爆発してしまい、「殺意すら覚えた」という。
それから、カズさんは薬物に手を出し、やがて溺れていくことになる。その頃には、教会に住み込んではいなかったが、日曜には礼拝に行っていた。薬物経験がある進藤牧師には、すぐに見破られた。何度も「お前、クスリやってるだろう?」と問いただされるも、嘘と言い訳を繰り返していた。仕事をしても、すぐに覚せい剤を買い、使用していたため、生活費すらなくなっていった。知り合いと共犯し、住居に侵入しては金品を盗み、覚せい剤を買うお金に回していたという。
30歳になったある日、指紋から割り出され、住居侵入と窃盗の罪で逮捕された。薬物を使用し始めて2年が経過していた。「もうクスリもやめたかった。でも、やめ方がわからなかった。もちろん悪いことをしているのもわかっていた。とても苦しかった」と話す。
逮捕後、すべてを自供し、薬物を使用していたことも話したが、尿検査などの反応は陰性。罪に問われることはなかったが、裁判では実刑1年4か月。刑務所での生活が始まった。
刑務所では、なるべく人との接触を避けた。「刑務所内で知り合いになって、薬物売買の人脈が広がるという話をよく聞いていたから」だという。刑務をこなし、部屋では聖書の通読に励んだ。1年4か月ですべての聖書を一回と半分くらいを読んだという。
「1年4か月は長かった。でも、自分が犯した罪の重さだから仕方ない。進藤先生には、何度も手紙を書いた。父親を知らない僕にとって、進藤先生は本当の父親のように思っていた。そんな父親のような存在の人を裏切ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった」と話す。
今年5月、刑期を終えて、出所。初めて食べた食事は、コンビニで買った菓子パンだった。「甘いものが食べたかったので、とてもおいしく感じた」と話す。その足で、新築された罪友教会へ向かった。新型コロナウィルスの関係で緊急事態宣言が発令されていた最中の出所だった。「ニュースを見て、なんとなく様子は知っていたが、どこにも人がいなくて、本当にびっくりした。まさに浦島太郎のようだった」と笑う。
人生を大きく変えたキリストの愛を再び求めることに後ろめたさのようなものも感じつつ、「自分には、すがるものはこれしかない。もう一度やりなおそう」と思い、進藤牧師もそれを受け入れた。
「土地は、度々その上に降る雨を吸い込んで、耕す人々に役立つ農作物をもたらすなら、神の祝福を受けます(へブル6:7)」
聖書の言葉を胸に、力強く再起を誓った。