2022年度の文化勲章と文化功労者が25日に政府から発表され、将棋棋士でカトリック信徒の加藤一二三(かとう・ひふみ)氏(82)と、聖書学者で聖学院大学特命教授の関根清三(せきね・せいぞう)氏(72)が、文化功労者に選ばれた。
将棋界では2人目となる文化功労者に選ばれた加藤氏は、14歳7カ月で棋界初の中学生棋士となり、77歳で引退するまで60年以上現役を続けた。名人、十段、王位、棋王、王将のタイトルを獲得し、最年長勝利記録・史上最多記録対局数を記録する。現役を引退してからは、バラエティ番組など多数のメディアに出演し、「ひふみん」の愛称でも親しまれ、将棋の知名度の向上に大きな貢献を果たしたことが、選ばれた理由とされている。
現役時代は「神武以来(じんむこのかた)の天才」とも呼ばれたが、その道のりは順風満帆ではなかった。30歳の時、将棋人生に行き詰まりを感じ、何をしても空回りする日々が続いた。そんな中、キリスト教に出会い、カトリック教会下井草教会(東京都杉並区)で洗礼を受けた。著書『だから私は、神を信じる』(日本キリスト教団出版局、2021年)の中で、洗礼を受けてキリスト教の信仰を歩む者となってから、人生や将棋が大きく変えられたと告白している。
東京都渋谷区で開かれた記者会見では、「感激の至り。大変な朗報だと思い、家族中で大喜びしました」と述べ、記憶に残る対局を振り返り、現在の将棋ブームについても独自の見解を示した。また、モーツアルトなどの名曲が100年経っても色褪せないと同様に、名勝負の盤は何回研究しても飽きがこないと趣味であるクラシック音楽をとおして将棋の魅力を語った。さらに、藤井竜王のプロデビュー戦で対局し、敗戦したことにも触れ、今後再選するチャンスが与えられたら、さらに研究して戦いたいと今なお変わらない将棋への情熱を語った。
一方、関根氏は、解釈学的な方法論で旧約聖書を読み解き、画期的な業績を残したことが高く評価され、今回の文化功労者に選定された。
1974年東京大学年東京大学文学部倫理学科卒業。79年同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。80年ドイツ学術交流会 (DAAD) 奨学生としてミュンヘン大学に留学。1988年東京大学文学部助教授、94年東京大学大学院人文科学研究科・文学部教授。この間、ウィーン大学・エッセン大学・放送大学などで客員教授を務める。2016年東京大学定年退任し、その後聖学院大学大学院特任教授に就任した。
89年ミュンヘン大学よりDr.Theolz(神学博士)、96年「旧約における超越と象徴-解釈学的経験の系譜」で東京大学より文学博士を授与された。著書に、『旧約における超越と象徴――解釈学的経験の系譜』(東京大学出版会、1994年)、『旧約聖書と哲学 現代の問いの中の一神教』(岩波書店、2008年)、『内村鑑三 その聖書読解と危機の時代』(筑摩選書、2019年)など単著共著多数。
父はキリスト教無教会主義の伝道者で、旧約聖書学者の関根正雄(せきね・まさお)氏。
今回の顕彰にあたり、聖学院大学のホームページに次のようにコメントしている。
文科省から突然の御連絡をいただいた時は、正に青天の霹靂で戸惑いましたが、考えてみると、聖書学(私の専門の旧約学だけでなく新約学も含めて)、そして倫理学という分野には、優れた師友が沢山おられて、素晴らしいお仕事を積み重ねてらっしゃいます。そういう学の蓄積全般に対する顕彰だと、有難く感謝して、お受けすることといたしました。
東大を定年になって聖学院大学に赴任しました時は、歳も歳だから、もう大きな本は書けないかな(小さな論考は死ぬまで書き続けたいけれど)と思っていました。しかし、1年間授業で話した内容を纏めて1冊とし(『内村鑑三』)、また数年にわたって講義や演習で議論した内容に依拠しつつ旧著の増補版(『旧約における超越と象徴 増補新装版』)も出すことが出来、これは清水正之学長を初めとする同僚・教職員の皆様が温かく見守ってくださり、優秀な院生・学生さん達が活発に議論に参加してくれたお蔭と、心から感謝しています。
これからも皆様の驥尾に付して、研究教育に微力を尽くしたいと、決意を新たにしております。