不倫の口止め料の支払いに関して虚偽の会計処理を行ったことでニューヨーク州地裁で有罪評決(5月30日)を受けたドナルド・トランプ前米大統領。その彼を、無実の罪で処刑されたイエス・キリストになぞらえる画像がネット上で出回り、論争を呼んでいる。
画像を作成したのはプロ・ライフ(中絶反対)活動家でカトリック司祭のフランク・パヴォーン氏。左にトランプの顔写真、右に十字架上のイエスの画像を配置し、両者の類似性を強調するものとなっている。キャプションには有権者に向け、「もしあなたが有罪判決を受けた犯罪者に投票することに躊躇いを感じるならば、思い出してください、あなたの救い主もまた有罪判決を受けた犯罪者だったことを」とのメッセージ。トランプはイエスと同様に無実の罪に問われ迫害されている英雄であり、有権者は今回の評決を受けてもなお胸を張って彼を支持し続けるべきだ、というわけである。
アメリカの福音派の一部はこの画像を歓迎。同画像をSNS上でシェアし、「トランプ=イエス」理解に賛意を示した人物には、著名な福音派の作家でラジオ司会者のエリック・メタクサス氏が含まれる(のちに削除)。同氏はマルティン・ルター、ディートリヒ・ボンへファーの伝記の著者として知られ、2011年には福音派キリスト教出版協会の「キリスト教書賞」を受賞している。近年では熱烈なトランプ支持の姿勢を示しており、最近のX(旧Twitter)上の投稿では、真のクリスチャンであるならば(有罪判決にかかわらず)トランプに寄り添い続けるべきだ、と発言していた。
こうした状況を受け、英国のキリスト教知識人で難民支援団体「サンクチュアリ・ファンデーション」の創設者クリシュ・カンディア氏は、英国のキリスト教メディア「プレミア・クリスチャニティ」紙(6月5日付)に「オピニオン」を寄せ、アメリカの福音派の現状を痛烈に批判。カンディア氏が憂慮するのは、「トランプ=イエス」像への賛同者が、過激な右派勢力だけでなく「福音派のメインストリーム」の中にも含まれていることだ。同画像をSNS上でシェアしたメタクサス氏は神学的な教養をもち、著作やラジオでも影響力のある人物。
カンディア氏は、そのような人物がこうした投稿をしていることはアメリカの福音派の危機的状況を象徴していると嘆き、トランプとイエスはむしろ明らかに対照的な存在であることを強調する。「この画像は世界中のクリスチャンにとって衝撃的なものだ。前者(トランプ)は権力、セックス、金が好きでたまらないことで有名な人物だが、後者(イエス)はそのすべてを戒め、自己犠牲の人生を歩み、飢えた人々に食べ物を与え、病人を癒やし、見知らぬ人を迎え入れた人物だ」。
(翻訳協力=木村智)