米国で高まる「キリスト教ナショナリズム」 藤井修平 【宗教リテラシー向上委員会】

米大統領選挙が近づくと、米国政治とキリスト教の関係が取り沙汰されるのが常だが、2024年の選挙はその動きがさらに極端なものになるかもしれない。近年の傾向として見られるのが、共和党支持者の間での「キリスト教ナショナリズム」の高まりである。

テレビ司会者のクレイ・クラーク氏と、前トランプ政権で大統領補佐官を務めたマイケル・フリン氏によって2021年に設立された「リアウェイクン・アメリカ」はその主導者とみなされているが、この団体は米国をキリスト教徒の国とすることを主眼に、Qアノン、大統領選挙不正説、コロナウイルス陰謀論、反ユダヤ主義などを奉じる人々が集まっているという。こうした動きが顕在化したのは2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件の以後であり、フリン氏らが「リアウェイクン・アメリカ」を立ち上げたのも議事堂襲撃の失敗を受けてのことだと考えられている。

1月にテネシー州で開かれた集会には、フリン氏に加えトランプ氏の次男も登壇した。会場を提供したグローバルビジョン聖書教会のグレッグ・ロック牧師は、議事堂襲撃に加わっていたとされている。さらに5月にもフロリダ州のトランプ・ナショナル・ドラル・マイアミで、福音派団体「トランプのための牧師」と同時にイベントを行っている。

共和党議員の中にも、キリスト教ナショナリストとみなせる人物が増えている。ペンシルベニア州のダグ・マストリアーノ上院議員は「国家と教会の分離は『神話』だ」と述べ、同州に「神を連れ戻す」と宣言した。コロラド州のローレン・ボーバート下院議員も「教会と国家の分離というがらくたにはうんざりだ」と発言し、聖書的な教育の導入を公言している。キリスト教ナショナリストの政治家は、「全米キリスト教議員協会(NALC)」の下で、キリスト教的な州法の制定を推し進めている。

公共宗教研究所とブルッキングス研究所が2月に公表した調査結果によると、キリスト教ナショナリズムの支持者あるいは共感者とみなされた割合は、白人福音派プロテスタントが64%、白人主流派プロテスタントが33%、白人カトリックが30%、ヒスパニック系カトリックが23%などとなった。政治的姿勢は、共和党支持者は54%、民主党支持者は15%と明確に分かれている。

同報告でも、キリスト教ナショナリズムは「民主主義の健全性にとって大きな脅威となっている」と述べられているが、米国のキリスト教界においてもこうした動きを危惧する声が上がっている。「宗教の自由のためのバプテスト合同委員会(BJC)」や「キリスト教ナショナリズムに反対するキリスト教徒」も反対運動を行っているし、「フェイスフル・アメリカ」は公式サイトで、キリスト教ナショナリズムが議事堂襲撃を引き起こしたイデオロギーであるとした上で、それはキリスト教ではなく政治イデオロギーであり、福音に矛盾していると述べ、キリスト教ナショナリズムは決してキリスト教を代表するものではないと声を上げなければならないと訴えている。

キリスト教と政治の関わりは米国では今や明確なものとなっているが、近年の状況は、一部では政教分離の原則を無視し、陰謀論と結びつくなど、極端なものも現れている。大統領選ではその動きがどう展開するのか、さらなる注視が必要である。

藤井修平(宗教情報リサーチセンター研究員)
 ふじい・しゅうへい 1986年東京生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京家政大学非常勤講師。進化生物学・認知科学を用いた理論を中心に、宗教についての理論と方法を研究している。著書に『科学で宗教が解明できるか:進化生物学・認知科学に基づく宗教理論の誕生』(勁草書房)など。

【宗教リテラシー向上委員会】 「宗教の自由」をめぐる日米の動向 藤井修平 2022年11月21日

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