旧約聖書と教会 今、旧約聖書を読み解く
小友 聡著
四六判・208頁・定価2200円・教文館
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旧約の思想を現代の教会形成に繋げる
〈評者〉及川 信
著者は、旧約聖書の中であまり注目されてこなかった知恵文学の専門家である。読者も『コヘレトの言葉を読もう』(二〇一九年)やNHKで放送された「こころの時代」(二〇二〇年、二〇二一年秋から月に一回再放送)などで、その働きの一端に触れたことがあるだろう。
著者は教会の牧師であり、旧約聖書の学者でもある。その著者にとって、旧約聖書は古代の「文献」ではない。それは歴史の中で、幾度も襲ってきた危機の中で信仰共同体を生み出してきた「信仰告白」の書である(第二部第五章「旧約聖書における信仰告白」、一九八頁)。だから、「旧約聖書のテクストの歴史性を保持した上で、それを予型ないし原型と(する)」(第二部第四章「予型論をとおしての説教」、一七八頁)。そういう形で聖書を読み、教会の礼拝で神の語りかけを説教する。その際、この言葉は個人に対して語られると言うより、神との契約を結んだ共同体が相手なのである。「契約という共同体の法を有し、救済の歴史性を絶えず想起し保持する共同体が契約共同体である」(第二部第二章「愛と法」、一四七頁)という言葉に、それは明らかである。そして、教会で洗礼を受けた信徒のみが聖餐にあずかる、所謂クローズド聖餐に関して、著者は「キリストの十字架と復活の歴史的出来事を記念する聖餐式をサクラメントとして保持していることと相即する」(同)と言っている。こういう所からも、旧約聖書と教会の現在との結びつきは明らかであろう。そして、著者は繰り返しその事実に注目している。
話が前後するようだが、本書の構成は二部構成になっている。第一部は「旧約聖書の思想」であり、第二部が「旧約聖書と教会」である。第一部には、第一章「旧約聖書は歴史をどう描いているか」にはじまり六つの論考がある。
誌幅の都合で一つ一つの論考の紹介は出来ない。しかし一箇所だけ紹介したい。著者は第一部第四章「秘密は隠される」の結論部でこう言っている。
「旧約聖書では秘密は隠されるのである。……自ら答えを見つけ出して、そこから前向きに生きていくことが要求される。旧約では不可知性がいわば跳躍台となり、それが反転して積極的で前向きな行動を生み出す。不可知性が倫理的主体性を創出するのである。それが旧約の知恵が提示する生き方である」(七四頁)。
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