戦争を予防する韓国キリスト教からの呼びかけ 松山健作 【この世界の片隅から】

朝鮮半島を巡る軍事的緊張感は、依然として緩まることがない。日本のメディアは、北朝鮮のミサイル発射について大きくリアクションする傾向にある。一方で北朝鮮に与える米日韓の脅威や威嚇については、私たちが知り得る情報がどれだけあるだろうか。

韓国基督教教会協議会(NCCK)和解統一委員会は、平和と連帯のため、近隣地域の住民、宗教、市民社会の会議に合わせ2月2日午前11時から臨津閣の統一大橋前において、近隣地域の軍事的危機を憂慮し、緊急記者会見を行った。記者会見においては、南北関係を悪化させ、戦争を呼び起こす軍事訓練を中断することが求められた。

和解統一局幹事のナム・ギピョン牧師は「私たちは、見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは一時的であり、見えないものは永遠に存続するからです」(コリントの信徒への手紙二4章18節)を引用し、「戦争は予防するものです。予防が最善であり、唯一の道です。予防することは、眼に見えず、眼で認知できません。成果も見ることができません。何も起こらないからです」と説明し、軍事訓練によって戦争に備えるのではなく、目には見えない予防によって、戦争を未然に防ぐことに努めなければならないことを強調した。

NCCK和解統一委員会と近隣住民の訴え

私たちは、世界で起こっているウクライナとロシアの戦争、パレスチナとイスラエルの戦争、その他さまざまな地域で起こっている武力衝突を見る時、銃を向け合っている双方が大きな犠牲を負っている様相を目撃している。無関心であってはならないと思いつつも、何もできないという無力感にさいなまれることもある。けれども、ナム牧師はそのような戦争を予測し、目に見えない戦争の予防に努めることこそが、キリスト者の使命であると呼びかけた。

戦争は洗い流すことのできないトラウマをもたらし、世代から世代を越える憎悪を植え付ける。朝鮮戦争を経験した朝鮮半島は、現在も南北が分断による多くのトラウマから脱することができていない。そのトラウマは、政治、社会、宗教などさまざまなところに分裂を生み出す原因ともなっている。もちろん、歴史的には日本帝国の植民地政策がこの分断に大きな影響力を及ぼしたことはいうまでもない。

NCCKでは、2023年12月18日から22日までクリスマスを目前に、戦争に反対する緊急祈祷会を連日実施した。祈祷会では、パレスチナ、ウクライナ、東北アジア、朝鮮半島の平和が主題となった。祈祷会では、朝鮮半島が強大国の主導する新冷戦構造の中に取り込まれ、朝鮮半島南北における危険と葛藤がより深まり、分断の状況はより悪循環に陥っていることが指摘されている。

それらの緊張感の高まりを象徴するように2024年1月5日には、北朝鮮から韓国の延坪島、白翎(ペンニョン)島に近い海域で200発以上もの砲撃が行われた。その一方で韓国軍も海上射撃訓練を行い、反発や報復といった軍事訓練が絶え間なく続いている。

キリスト者は、この地において分裂・分断を支持するのではなく、和解を実践し、平和を造り出す使命をキリストより与っている。私たち日本のキリスト者もNCCKが呼びかけているように軍事訓練をはじめとする敵対行動に反対し、対話を求めて平和的な方法によって、武器を捨てる呼びかけに応答する必要があるだろう。

松山健作
 まつやま・けんさく 1985年、大阪府生まれ。関西学院大学神学部卒、同大学院博士前期課程、韓国延世大学神学科博士課程(神学博士)、ウイリアムス神学館修了。現在、日本聖公会京都教区司祭、金沢聖ヨハネ教会牧師、聖ヨハネこども園園長、『キリスト教文化』(かんよう出版)編集長、明治学院大学非常勤講師など。

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