台湾で中国国民党と台湾民衆党が強行採決した「立法院職権行使法」などの修正案に抗議する群衆が5月24日、国会に当たる立法院の前の青島東路に集まった。この修正案は、国会議員に行政権や司法権を侵害する無制限の権力を与えかねず、明らかに憲法違反である。具体的には、大統領に当たる総統に対する質疑や市民に対する調査が可能となり、調査対象者は弁護士の同席にも同意を得なければならないとされている。この修正案に対する不満が広がり、この日の夜には10万人以上が集まる大規模な抗議が展開され、2014年の「ひまわり運動」(当時の国民党政権=馬英九総統=が中国大陸との経済関係を強化するために推し進めようとしていた「中台サービス貿易協定」に対し、学生たちが立法院を占拠するなどして抗議した運動)を彷彿させる大規模な抗議活動となった。
広がる「青鳥行動」
台湾基督長老教会 済南教会が支援
フェイスブックなどのソーシャルメディアでは、中国での利益を追求する大企業が内容審査や制限を行い、重要なキーワードのアクセス数やヒット率を低下させている。このため、抗議者たちは、現況を多くの人に知らせるために、「青島東路」を「青鳥東路」と変更してネット上に投稿し始めた。こうして、この抗議活動が「青鳥行動」と呼ばれるようになったのは、ネット時代のたいへん興味深い事例だろう。
この抗議活動の中心的な役割を果たしたのが、台湾基督長老教会(以下、長老教会)の済南教会である。長老教会の総会本部と社会委員会は、立法院から50m以内に位置する済南教会を拠点として、ボランティアの募集、交通の整理・誘導、物資の収集・配布、さらに現場で1万食以上の温かい食事の提供などを実施した。同教会の黄春生牧師は長きにわたり政治や時事問題に積極的に関心を持ち、時宜に及んでその影響力を発揮してきた。例えば2019年の香港の「反送中」(逃亡犯条例改正案)への抗議活動のために台湾に逃れた香港人を支援する活動も行ってきた。多くの団体と調整を行いながら、香港人の生活支援を行い、済南教会内に香港人のための交わりの場や広東語の礼拝を設けるなど、多岐にわたる支援を行っている。
長老教会の起原は1865年にまで遡さかのぼり、そのため1949年に国民党政府とともに中国大陸から台湾に渡って来た教派とは背景が大きく異なる。実は1960年代以前には長老教会が国民党政府を非常に支持していた時期もあったが、その後、世界教会協議会(WCC)が共産主義国家(中華人民共和国)の政府公認教会の加盟を受け入れたため、国民党政府は長老教会に対し、この「共産主義を容認する組織」から脱退するよう求め、両者の対立が深まっていった。そして1970年代になると、長老教会は「三大声明」(「国是声明」「私たちの呼びかけ」「人権宣言」)を発表し、特に1977年の「人権宣言」においては、台湾を「新しく独立した国家」にするための措置を求めた。
「新しく独立した国」という言葉が、「台湾独立」を支持したことを意味するかどうかについてはここでは論じないが、このように、長老教会は台湾の国家認識や将来について最も関心を持つ宗教団体であり、国民党による独裁政権時代も政府への不満を表明するためたびたび街頭に立つなど、積極的に政治に関与してきた。そのため、多くの人々は長老教会が政治に過度に関与していると考え、民進党の応援部隊と見なすこともある。このステレオタイプが台湾社会における長老教会のイメージとなっている。
5月28日には、立法院の外に数万人の抗議者が集まり、50人以上の法学専門家が修正案の再審査を呼びかけたが、国民党と民衆党の推進する国会権力の乱用につながる修正法案はやはり可決されてしまった。これにより、台湾の国防や外交機密が中国に漏れる可能性が生じている。日本の教会の友人たちには、引き続き台湾のために祈っていただきたい。台湾の民主主義と自由は今、非常に深刻な脅威と挑戦に直面しているのだ。「青鳥行動」は長期的な闘いとなるだろう。
(原文:中国語、翻訳:笹川悦子)
てい・ぼくぐん 1981年台湾台北市生まれ。台湾中国文化大学史学研究所で博士号取得。専門分野は、台湾史、台湾キリスト教史。現在、八角塔男声合唱団責任者、淡江大学歴史学部と輔仁大学医学部助教、台湾基督長老教会・聖望教会長老、李登輝基金会執行役員、台湾教授協会秘書長。