*本稿は大統領の罷免が決定する4月4日以前の段階で書かれたもの。
「尹錫悦、罷免しろ」「罷免しろ、罷免しろ」という声が街に響く。3月27日、中高生の引率でソウルの旅に出かけた筆者が体験した状況である。ある大韓聖公会の司祭は、「国がこれからどうなるのか、私たちの国は滅んでしまうのかもしれない」と、両極化する現代韓国の政治状況に対して嘆いていた。
尹錫悦大統領は、12月3日に非常戒厳令を発令し、国民は独裁政治の再来という恐怖に陥った。戒厳令は無血のうちに撤回されたとはいえ、国民にとっては国家権力の暴走を目の当たりにする非常事態と映った。
韓国基督教教会協議会(以下、「NCCK」)は、このような状況に対して、戒厳令翌日12月4日に戒厳令の宣布は違憲であることを表明している。尹大統領の行動は、憲法秩序を崩壊させ、民主主義を崩壊させる態度であることを指摘した。国民の自由と安全を著しく脅かした全司法的責任を問わなければならないと、追求の姿勢を見せている。
今回の事態は、大韓民国において1987年韓国の民主化以来、国民が築き上げてきた民主主義に対する裏切りであり、韓国社会における歴史的な後退となる事件であり、血と涙によって勝ち取ってきた韓国における民主主義に対する挑戦である。
NCCKでは、このような事態に対して、キリスト教界が神から授かっている預言者的使命に従い、民主主義を傷つけ、国家を混乱の渦に陥れた尹大統領の責任を問う使命と、崩壊へと向かう民主主義に対する回復の二つの使命をキリスト教界が自覚しなければならないと呼びかけている。
そのような中で尹大統領は、内乱罪として刑事起訴されるも3月8日に釈放され、今後の司法の判断に注目が集まっている。NCCKは同日に検察総長に対する抗議声明を表明している。ここでは、尹大統領が釈放された司法判断に対して非常な憂慮と遺憾が表明され、適正な司法判断であったかに対して疑問符を投げかけている。元検事総長である尹大統領の力に忖度する判断がなされたという可能性も拭い切れない。
尹大統領の弾劾追求に関しては、NCCKレベルだけでなく、全国の神学校(監理教神学大学校、聖公会大学校、韓神大学校、長老会神学大学校、総神大学校など)における神学生たちもエキュメニカルな連帯によって立ち上がっている。
神学生たちは、3月27日に「憲法裁判所の宣告について追求する全国神学生の連合」による声明を発表した。キリスト者として、この世における使命を負い、政治的危機の本質を問い、韓国教会と民主主義を守る決意を表明している。各神学校神学生たちの共同声明は、尹大統領の罷免を要求し、韓国社会の幸福と平和の回復を求めている。
しかしながら、尹大統領に対する視線は、韓国教会内において両極化しているという。そのような中で今後の教会を背負っていく神学生の声は、非常な勇気と責任の表明である。しかし、同時に既存教会においては、神学生たちは若手として弱い立場でもある。教会の既成権力との葛藤が今後も続くことが予想される。
韓国における今後の政治動向に注目しながら、どのような結論が待ち受けているか、関心を持っていきたい。そして韓国教会がどのように応答するのか、またどのように日本のキリスト教会が協調するのかが問われている。
松山健作
まつやま・けんさく 1985年、大阪府生まれ。関西学院大学神学部卒、同大学院博士前期課程、韓国延世大学神学科博士課程、ウイリアムス神学館修了(神学博士)。現在、日本聖公会京都教区司祭、金沢聖ヨハネ教会牧師、聖ヨハネこども園園長、『キリスト教文化』(かんよう出版)編集長、明治学院大学教養教育センター付属研究員など。