精神科医の田中哲さん講演 子どもたちに教会コミュニティーができること

 

精神科医の田中哲(たなか・さとし)さんを招いての「教会教育セミナー2018」(いのちのことば社CS成長センター主催)が15日、お茶の水クリスチャン・センター(東京都千代田区)8階チャペルで開催された。前半は「教会・コミュニティーで子どもの成長を助ける」と題して講演が行われた。

田中哲さん=15日、お茶の水クリスチャン・センター(東京都千代田区)で

「子どもをコミュニティーの誰かに託すというのは、人間だけができることです。人間の生態に近いチンパンジーですら、自分の子どもを他の誰かと共に育てるということはしません。それほど人間にとってコミュニティーは大切なものなのです。むしろ人間の子どもは、人に預けられないと育たないといえます。少し成長した時に『大きくなったね』と声をかけてくれる大人がどれだけいるでしょうか。いわゆる『育ちのコミュニティー』にどれだけの大人が関わっているかが大切なのです」

子どもはやがて社会に出て自立するようになる。その時、子どもの「doing(何をしたか)」ではなく「being(ありのまま)」をコミュニティーの人たちが認めることで、子どもは健全な成長過程をたどって社会に出ることができる。田中さんは自身の経験からこう語った。

「私の家庭は日曜日も両親共に働いていたので、子どもたちだけで教会学校へ行っていました。その後、母も教会へ行くようになるのですが、父が教会へ行くようになるのは亡くなる数年前のこと。晩年になって突然、『教会へ行く』と言い出したのです。父も幼い頃には教会学校へ通っていて、教会が安全な場所だと知っていました。だから、私を教会学校へ送り込んだのです。そして、自分の人生を振り返って、自分をここに立たせているものは何かと考えた時に、人生の『お礼がしたい』と教会に戻ってきたのだと思います。子どもを育てるコミュニティー、いわゆる『育ちのコミュニティー』とはこういうものだと思うのです」

子どもが体験する「安全な『ヨソ』」が育ちのコミュニティーの特徴だという。多様性が受容され、存在が認められる場所だ。

「教会は、この育ちのコミュニティーの一端を担うことができます。教会が一般社会と大きく違うのは、本来、子どもの存在をありのままに受け入れ、doingではなくbeingを重視するところ。これこそが、子ども成長にとって不可欠なものなのです」

また、クリスチャンホームで育つ子どもたちの特徴と、教会ができることについても話した。

「生まれた時から教会に通う子どもの特徴の一つは、『自分らしさ』と『クリスチャンらしさ』という二つの秩序を自然に生きていること。たとえば、『学校での自分』と『教会での自分』のダブル・スタンダードを知らず知らずのうちに使い分けているのです」

「クリスチャンらしく行動する」ことと「クリスチャンとして行動する」ことは違うのか、また「クリスチャンとしての自分」と「クリスチャンらしさ」のどちらが褒(ほ)められているのかについても悩む時があるという。集団の中で目立ちたくないと思う一方で、クリスチャンらしく振る舞わなければならないと思う心も芽生える。

「教会でいう『罪』と、一般社会での『悪い行い』との関係なども大切」と話す。

通常、人は「being」は選べないが「doing」は選ぶことができる。しかし、クリスチャンになるということは、これからどういう立ち位置で生きていくか(being)を自ら選択できる数少ない機会でもある。それを知るのと知らないのとでは、生き方そのものが変わってくる。

「生きにくい現代を生きる子どもたちと共鳴しながら、時には一緒になって悩むことも必要です。これこそ、教会コミュニティーのすべきことではないでしょうか」と話し、講演を締めくくった。

守田 早生里

守田 早生里

日本ナザレン教団会員。社会問題をキリスト教の観点から取材。フリーライター歴10年。趣味はライフストーリーを聞くこと、食べること、読書、ドライブ。

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