雨傘運動から10年を迎える香港。8月末、ネットメディア「立場新聞」の総編集と記者、それに親会社が有罪とされた。9月に入って量刑が言い渡され、総編集の鍾沛權(チョン・プイクァン)さんが懲役21カ月となった。2019年の記事11本が「暴徒」を美化しており、160万人もフォロアーがいるメディアとして「扇動」したのだという。日本でも知られたリンゴ日報関係の裁判がまだ終わっておらず、報道機関や記者が書いた内容で有罪判決が出た初の事例となった。記者協会は取り返しがつかなくなると猛反発しているが、鄧炳強(クリス・タン)保安局長官は香港の報道の自由、集会の自由、民主主義は揺るぎない、と発言している。今の香港で目立った抗議活動はないが、主にネット上で聖書の言葉とニュースを引用し、裁判官らに「彼らは何をしているか知らないのです」と書き残す人が多かったのが印象的だった。
そんな中、いわゆる民主派の活動を担ってきた団体の一つ「香港基督徒學會(HKCI)」が解散を決めた。すでに、7月末で会としての活動は停止になり、今現在は法人としての清算作業に入っている。中国返還が決まった後、1988年に香港で正義、民主主義、人権が尊重される社会を目指して、教派を越え個人が集まって発足した。9月末、今まで出版してきた在庫書籍の無償譲渡会が会の事務所でひっそりと行われた。残された書籍を見ていると、返還前の香港の人たちの心配、そして返還以降も香港で起こった数々の大きな出来事に対して、香港の人たちがどのように乗り越えようとしてきたか、見て取れるようだった。おそらく、譲渡会でも余った書籍は、もう書店に並ぶこともなく他の民主派団体同様に古紙業者に引き渡されるのだろう。
このHKCIや労働団体とともに大規模なデモを呼びかけてきた香港カトリック正義と平和委員会も組織替えになり、これから先は主に環境問題に特化していくのだという。他にもキリスト教雑誌「突破(Breakthrough)」も今年で停刊する。こちらも、90年代は月刊誌として人気雑誌でコンビニでも売られていたほどで、いろんな青年とその活動を取材し、学生たちの声を拾い上げてきた。佐敦(Jordan)駅近くのカフェを兼ねた書店は残るだろうが、やはりさみしく思う。
明るいニュースが乏しい中、一つ嬉しかったのは九龍ユニオンチャーチ(KUC)が100周年を迎え、そのお祝いの会が開かれたことだ。1924年9月に開かれ、2017年に文化財に指定されたレンガ作りの礼拝堂と活動センターが佐敦地区でのランドマークになっている。教会としても日本占領期の前後6年間を除いて続けられてきた。この教会の活動は実に多岐にわたる。ここに来るだけで香港社会の側面がかなり分かるのではないかと思う。フィリピン、インドネシア、インド、アフリカ系の人たちのグループに加え、子ども向けのおもちゃライブラリーや家事労働者などの労働問題を扱うNGO、さらにCCA、YMCAやWSCFなどキリスト教団体のアジア地域事務所の人たちも集っていた。東日本大震災の時は、ここで祈祷会が行われた。
現在の主任牧師、フィリス・ウォンさんもKUCでは初めての女性の牧師。就任が決まった時は、彼女の家族もそろって転会するかしないかなど、いろいろな議論があったことも懐かしい思い出になっている。
お祝いの会は約3時間、デモのなくなった香港で、久しぶりにいろいろな友人に会えた。会が終わると会場の外は稀まれに見るどしゃ降りであったが、みな笑顔で帰っていった。これも今の香港。また元気で会おう~!
こいで・まさお 香港中文大学非常勤講師。奈良県生まれ。慶應義塾大学在学中に、学生YMCA 委員長。以後、歌舞伎町でフランス人神父の始めたバー「エポペ」スタッフ。2001年に香港移住。NGO勤務を経て2006 年から中文大学で教える。