アジア農村指導者専門学校「アジア学院」は、1973年に栃木県那須塩原市に設立してから今年で50周年を迎える。ここでは、途上国と呼ばれる国から集まった農村のリーダーたちが、有機農業を学びながら「サーバントリーダー」となるための考え方を学んでいる。キリスト教精神が教育のベースだが、多国籍の学生たちはそれぞれ独自の文化や言語、宗教を持ち、これまで約1400人の学生を輩出してきた。そんなアジア学院について、校長を務める荒川朋子(あらかわ・ともこ)さんに話を聞いた。
ーーどのような人たちが学んでいるのですか。
アジア学院では、主にアジア、アフリカ、太平洋地域の農村共同体に生き、働く男女の指導者たちが学んでいます。学生は、農業を専門にした人だけではなくて、学校の教師や教会の牧師、教会がやっている農村開発セクターの職員など自国での職業はさまざまです。日本人学生も受け入れています。また、専門的な知識を得るのではなく、実践に根ざした総合的な学びなので学歴の縛りもありません。そういった人たちが農的な暮らしを基礎にした共同体を作り、自給自足の生活で、共に学んでいます。多分、こういった学校は世界で唯一だと思います。
ーー研修内容について教えてください。
毎年4月から12月まで9カ月間にわたって研修を行います。技術の習得のほかに、参加型学習法、ジェンダー、エコサイクル、差別問題といったコミュニティリーダーとして欠かせない課題にも取り組んでいます。カリキュラムは、アジア学院のモットーである「共に生きるために」を元に40年以上にわたる経験から構築されています。有機農業実践を中心にした研修、数多くのイベントの機会をとおして個人の成長を促していきます。
ーー研修のポイントは何ですか。
研修の3つの柱は「仕える指導者」「フードライフ」「共同体形成」ですが、ここでは、日本の思想や農業の方法を教えるわけではありません。一番いいのものはそれぞれの地域にあって、必要なのはそれを発見し引き出す力だということを伝えています。大切なのは、自分たちが生活する地域に「有用な資源」があるということを信じることです。私たちが教えるのは、それを引き出す手段と方法で、あとは「日本を真似するのではなく、隠れている『有用な資源』や『いいもの』を探しなさい、絶対あるはずだから」と伝えています。入学当初は、自分たちの地域の現状に絶望し、助けを求めている状態ですが、学んでいくうちに、自分の地域にも隠れた資源や可能性があることに気づきます。
ーー共同生活ではどのようなことを学びますか。
彼らにとっての一番の学びは、9カ月間ここに集まった仲間と幸せに平和に生活したという事実ではないでしょうか。帰国すれば、紛争や汚職がまん延し、凄まじい差別もある。しかし、仮のコミュニティであったとしても、さまざまな背景を持つ国も文化もちがう人たちが、大きな問題もなく、毎朝一緒に起きて、学んで、働いて、食べて、みんなで力を合わせて生活する、そんなアジア学院での9カ月間は、まさに神さまから贈り物なんですね。その尊い贈り物が彼らの心に残って、母国での活動のエネルギーになっていると思います。(後編に続く)
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