終戦から75年 キリスト教と戦争 治安維持法違反で収監された木田文治牧師

終戦から75年を迎えた。「敵国の宗教」と呼ばれたキリスト教は、当時、伝道をすることはおろか、信仰を守ることさえも難しいとされていた。宗教団体法が制定され、プロテスタントの諸教会は「日本基督教団」として、軍部の統制下にあった。

そのような状況の中、多くの牧師や信徒たちが治安維持法違反の罪で収監され、取り調べを受けている。その中の一人に、木田文治がいた。文治が特別高等警察(特高)から取り調べを受けた際の調書などをもとに、文治の孫、吉持篤信牧師(イエスキリスト日出教会ボランティア牧師・ナザレン別府教会員)に話を聞いた。

生涯伝道し続けた木田文治牧師

文治は、1868年(明治元年)6月、酒造家の長男として長野県で生まれる。明治13年には家族で上京、のちに長崎県五島列島に渡り、長崎市内で役場に勤めている。好奇心旺盛で、広い視野を持った青年期。その好奇心が一気に爆発したのは、文治が17歳の時。積年の夢でもあった渡米を果たすべく密航を企てたのだった。しかし、すぐさま横浜港で逮捕。しかし、あきらめることなく2年後には英国船籍の下級船員として渡米を果たした。

他の船員らと逃げ回った後、オレゴン州ポートランドの組合教会付属の中学校へ入学。英語の勉強に励んだ。それと同時に、聖書の教えをこの時、初めて受けるようになった。

「天地創造の神とは誰のことか?天地を創造したのが神ならば、神を造ったのは誰なのだろう?」と訝(いぶか)しげに宣教師たちに尋ねた。それを聞いた宣教師たちは、何も知らずに神を疑うこの青年に、涙を流したという。

しかし、宣教師たちの熱心な伝道に、少しずつ心を開き、1892年(明治25年)の特別伝道集会で「イエスは、自分の罪のために十字架にかかってくださった」と告白。信仰をもつことになる。翌年には、献身の道へと導かれた。成人男性である文治には、徴兵検査を受けなければならない義務があったが、長年これを拒否。米国にとどまっていた。

「献身するには、身辺整理をしなければならない」

文治は、一念発起して帰国を決意。東京裁判所に出頭した。翌年、実家のある長野県に帰ると、父親からは「お前は耶蘇(やそ)にだまされている」とののしられた。それでも熱心に伝道をして、とうとう浄土真宗の信仰があった木田家の法事の席で父親がキリスト教の信仰を告白。住職に聖書の言葉を告げた。

「神はそのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである」(ヨハネ3:16)

キリスト教の信仰を持ち、酒蔵を続けることに違和感を感じた両親は、これを他人に譲渡、新たな生活を始めた。

明治40年、妻子を連れて再渡米。北米ホーリネス教団の初期の牧師となったが、帰国後、表参道の教会で牧会をしていた昭和17年6月26日(ホーリネス一斉検挙で、同日に96名が逮捕)、治安維持法違反の罪で収監。高齢だったこともあり、執行猶予がついて、半年ほどで釈放。

特高からの尋問は多岐にわたり、文治の生い立ちや経歴などのほか、キリスト教の教理についても詳しく聞かれている。それは、全知全能の神を信じるキリスト教徒たちが、天皇を現人神とする当時の日本において、脅威となりえるか否かを問うものであった。11回にわたる調書は、文治が必死に自らの信仰が何ら国体にとって脅威ではなく、むしろ平和をもたらすものであると一貫して主張している。

「神の目的とするところは?」との質問には、「人類社会より一切の罪悪が払拭され、万民が等しく祝福を受ける状態、地上に神の国が建設されることが目的である」と答えている。「聖書をどうとらえているか?」と聞かれ、「神の言葉である」と断言している。

「万世一系の天皇のわが大日本帝国への影響は?」と聞かれた文治の答えは、当時の特高を驚かせたに違いない。

「天皇が人間である以上、神の被造物であり、キリスト以上のものではなく、大日本帝国も地上の再臨によって新しい時代が開始されれば終わりを告げることを信じている」

尋問の最後には、「天地創造の神が云々(うんぬん)と公衆の面前で言わなければ、釈放してやる」との駆け引きにも「いえ、私がここを出たら、ますます伝道に励みます」と断言したという。

投獄と尋問は終戦まで続いた。釈放された文治は、晩年、日本ナザレン教団の牧師として、生涯、牧会に励み、88歳で召天している。

話を聞いた文治の孫、吉持牧師は「私も記録を読むまでは、祖父がどのような生涯を送ったのかあまりよく知らなかった。文治の子である私の父は牧師でしたが、若くして出征し、復員したのち、体を壊して召天した。この二人のキリスト者を身内に持つ私は、これからも平和を祈っていかなければならないと感じている」と話し、インタビューを終えた。

終戦から75年。コロナ禍で迎える終戦の日。私たちの信仰が問われている。

 






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