残暑が厳しい夏の終わり、セミの声をかき消すような笑い声が森の中に響き渡っていた。9月15、16日の両日、京都YMCAリトリートセンター(京都府宇治市)で、京都・滋賀・奈良の七つの教会から小学生と関係者含め約30人が集まり「教会合同小学生キャンプ(同実行委員会主催)が開かれた。同委員会の前身は、京都YMCAが隔月で開催していた超教派の「懇談会」。懇談会を主催した京都YMCAの藤尾実さん(公益財団法人京都YMCA公益活動副部長)に話を聞いた。
「昨年から、牧師・伝道師有志、大学神学部学生有志、京都YMCAスタッフが集まり、『京都市内キリスト教関係団体懇談会』を組織し、互いの現状や課題、そしてそれに対して何ができるかについて協議してきました。その中で、少子高齢化やコロナ禍の影響により、教会学校を運営する教会が減少し、教会学校キャンプを開催できない教会が増えている現状が浮き彫りになりました。こうした状況の中で、教会の枠を超えて子どもたちが出会い、つながり、共に祈ることを目的としたキャンプを開催しようという流れになりました」
YMCAが関わる意義については、「教会や神学部の学生と関係を構築し、地域の課題に共に取り組む人を増やすこと。YMCAのC(クリスチャニティー)を強化すること(関わる人材、活動内容)。教派を超えたエキュメニカルな組織としてのYMCAが主催することで、少子高齢化の進む日本のキリスト教界で教会やキリスト者を結び付ける役割を果たすこと」だと考え、懇談会での司会や広報活動、実行委員会発足後は、企画会議の中心的な存在として関わり続けてきたという。
「教会合同」と銘打つだけあって、日本聖公会からは、京都聖マリア教会、奈良基督教会。日本基督教団からは、桂教会、京北教会、草津教会、膳所教会、洛南教会が参加し、それぞれの教派の信徒とその子どもたちが参加した。
〝教会〟のキャンプとするために、教会からは、礼拝や隣人愛とはどうあるべきかを指導する教師及び信徒と、参加する子どもたちを送り出し、京都YMCAからは、会場とキャンプリーダーたちを提供した格好だ。キャンプの再開が難しいと考えていた教会の課題を、京都YMCAが持つノウハウでカバーすることを狙った取り組みだ。
実行委員会のメンバーであり、2日間を通してキャンプの中で行われる礼拝の司式を担当した熊谷沙蘭(さら)さん(日本基督教団桂教会牧師)は、「YMCAで培われたキャンプのノウハウと経験がなければ、今回のキャンプは成功しませんでした。完全に作り上げられたプログラムではなく、ある程度余裕を持たせ、子どもたちの様子を見ながら、柔軟に変更をしていけたことで、子どもたちが伸び伸びと参加でき、子どもたちの満足・楽しさにつながったのかなとも思います」と総括した上で、「キャンプでは『意味のないもの』に夢中になる子どもたちの姿が見られました。今の子どもたちは世の中が必要とすることに囲まれています。意味のないことを探究する余白が少なく、面白さを感じることも少なくなっています。けれど『意味のあるもの』ばかりに囲まれていると、意味は分からなくなります。『意味のないもの』があるからこそ、『意味のあるもの』が浮かび上がります。余白があるからこそ、余白に囲まれた本文を読むことができるように、子どもたちが生きていくことの面白さや楽しさを感じることがあってこそ、『意味のあるもの』を探していけるのではと思います」と振り返った。
このキャンプにキャンプリーダーとして参加した中川陽向汰(ひなた)さん(龍谷大学文学部臨床心理学科3回生)は、キリスト者ではない。今回のキャンプをどのように感じていたのか。
「YMCAのキャンプにリーダーとして参加するのは、今回で8回目でした。YMCAの一般的なキャンプは参加人数が多いため、6~8人の小グループを作り、そのグループのリーダーとして責任を持つ。しかし、今回のキャンプは、グループがなく、みんなで動く。一体感も高まり、子どもたち同士も多様な関わりができたようでした。反対に、いつも以上に子どもたちの安全管理には神経を使いました。今回のキャンプが事故がなく無事に終えられたことに安心しました」
特に注目したことを聞くと、「一般的なキャンプにはない、祈りや礼拝の時間です。子どもたちの心を落ち着かせる良い時間となっていました。また、キャンプファイヤーの終わりに、火を見つめながら、2人1組になり1日の振り返りを行いました。他者に対して心を向ける大切な時間となっており、とてもよかった。自然の中という非日常的な空間で感じる五感と喜怒哀楽は、子どもたちの心に与える影響は大きいはず。もっと、子どもたちに参加してほしいと思う。来年も、このキャンプのリーダーをしたい」と述べた。
キャンプ後も、参加した保護者や子どもたちから「楽しかった」「良い友だちができた」「また参加したい」という手紙が実行委員会宛てに届いたという。教会が大切にしてきた「教会キャンプ」は、現代でもその価値は失われてはいない。
少子高齢化という未だかつて経験したことのない社会状況の中にあって、母教会の教会キャンプの行く末を心配している人は多いのではないだろうか。キャンプだけではなく、バザーなども同様の課題を抱える。
一つの教会でできないことを、近隣の教会と合同し計画してみることや、キリスト教として同じルーツを有する各地域のYMCAとの連携を検討してみることが求められている。
今、教会は、これまで大切にしてきた伝統と交わりを、どのような形として後世に残していくか問われている。今回の「教会合同小学生キャンプ」では、その解決策の一端が垣間見えたような気がした。
藤尾さんは、「次回以降のキャンプは、今回参加のあった日本基督教団や日本聖公会以外の各教派の教会からも参加いただき、実施できればと考えています。また、今回は子どもを中心とした企画でしたが、大人たちも出会い、交流する機会も持てたらと思います。さらに、キャンプ以外でも教会と連携し、地域に求められる活動――例えばクリスマスイベントなどを行っていきたいと考えています」と展望を語った。
(報告=後宮嗣、写真=佐々木結)