立命館大社会システム研究所が近江八幡市でシンポ 「文化的資産の〈負債化〉を防ぐために」

立命館大学社会システム研究所(金丸裕一所長)は3月9日、「文化的資産の〈負債化〉を防ぐために――近江八幡の事例にどう向き合うか」と題する公開学術シンポジウムをヴォーリズ学園高校(滋賀県近江八幡市)で開催した。近江八幡市は、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964年)が創設した「近江ミッション」の拠点となった都市で、同市内にはハイド記念館をはじめ、アンドリュース記念館、ウォーターハウス記念館、吉田悦蔵邸などヴォーリズ設計による文化的遺産が多数ある。

第一部の講演では、田淵結(関西学院大学名誉教授)、中村慎一(ANA総合研究所主席研究員)、久保健治(ヒストリーデザイン代表取締役)の3氏が登壇。関西学院や神戸女学院など長年ヴォーリズ建築の中で生活をしてきた田淵氏は、神戸ユニオン教会として出発した建物が現在は人気カフェとして活用されている事例を挙げ、キリスト教会として建てられた当初の目的や精神がビジネス化によって失われることへの危惧を提起した。中村氏は、その土地の気候や歴史、習慣が生んだ独自の食文化を学ぶ旅のあり方「ガストロノミー・ツーリズム」について提示、震災後の気仙沼市(宮城県)の事例などを挙げながら、資源の活性化を成功させるにはその土地におけるコミュニティとのつながりがいかに重要な要素であるかを強調した。また、久保氏は「歴史」をいかにして文化的遺産の継承と発展に結びつけるのか、他には模倣できないというその土地固有の「歴史」の利点を強調して、「ヒストリカル・ブランディング」の視点を訴えた。

応答者の一人として発言した吉田与志也氏は、ヴォーリズとともに活躍した吉田悦蔵(1890~1942年)の孫にあたるため、文化的建造物や膨大な史料を個人所有している立場から、その困難や今後の課題について問題提起した。

第二部では、薮秀実氏(公益財団法人近江兄弟社常務理事)の司会進行により、各方面からいくつかの課題が提起されるとともに、多数の質疑応答を中心に活発な議論が繰り広げられた。最後に、ヴオーリズ研究がさまざまな分野で個別になされている現状にたいして、全体としてまとめていく作業が重要であり、いわば点を面にしていく必要がある、そのためには横断的な交流とネットワークづくりが不可欠であることが確認された。

キリスト教界では、教会そのものや関連施設など建物の歴史が古ければ古いほど、それを「負債化」することなく維持管理していくことの困難が現実問題となっている。そうした教会では、建築物を解体することなく史料も散逸することなく、文化的資産として継承・発展していくことが求められている。(報告=松山 献)

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