平和研究の第一人者で国際政治学者の武者小路公秀(むしゃこうじ・きんひで)さんが5月23日、老衰のため逝去。92歳。副学長を務めた国連大学が7月13日に発表した。葬儀は近親者のみで行った。
武者小路さんは、1929年、ベルギー・ブリュッセル生まれ。国際政治学、国際関係論、平和研究の専門家として幅広く活躍し、人権の推進や反差別運動にも尽力。カトリック信徒でもあり、日本カトリック正義と平和協議会(東京都江東区)が、1974年の日本カトリック司教協議会の組織改正により新たに発足したときの初代会長を務めている。
研究者としては、学習院大学卒業後、フランス・パリ政治学院で学び、1956年に母校でキャリアを開始する。68年、上智大学で教授職に就き、外国語学部国際関係研究所の設立に寄与し、同研究所の所長を務めた。上智大学に在籍中に、ハワイ大学東西センター高等研究員や、ジュネーブを拠点とするCommission on Society, Development, and Peace(社会、開発および平和に関する委員会)のコンサルタントなども務め、76年に国連大学の副学長に就任。13年間にわたって勤務した。
また、上智大学、明治学院大学、中部大学、大阪経済法科大学で教授などを歴任。その一方で、世界政治学会(IPSA)会長、反差別国際運動(IMADR)副代表理事(後に名誉代表理事)、一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)会長、大阪国際平和センター(ピースおおさか)会長などとして活躍。さらに、反核平和を訴える有識者でつくる「世界平和アピール七人委員会」委員としても2004年から病気で引退する22年3月まで活動した。
著書に、『転換期の国際政治』(岩波書店[岩波新書]、1996年)、『人の世の冷たさ、そして熱と光―行動する国際政治学者の軌跡』(部落解放人権研究、2003年)など多数。作家の武者小路実篤(さねあつ)は叔父にあたる。