2030男女の分断、そして狭間に置かれた性的少数者たち 洪 伊杓 【東アジアのリアル】

5月10日、尹錫悅氏が韓国の新しい大統領に就任した。今年の3月に実施された第20代大統領選挙では、与党の李在明候補は「47.83%」を、第1野党「国民の力」の尹候補は「48.56%」を得票した結果、尹氏が李氏に「0.73%」(24万7077票)という僅差で勝ち、当選した。今回の大統領選挙で注目されたのは、韓国の選挙史上初めて「フェミニズム」が重要なイシューになった点である。実際に2人は3月2日のテレビ討論でもフェミニズムについて論争した。

尹氏は選挙運動を開始した1月7日、自らのフェイスブックに突然「女性家族部廃止」という7文字のみを載せた。これは金大中、盧武鉉、文在寅につながる、いわゆるリベラル政権が固守してきた男女平等・女性人権の政策方向を全面否定する宣言でもあった。このメッセージは20~30代の男性を熱狂させ、尹氏を支持する若者の男性が急増する結果となった。実際に「KBS・MBC・SBS」放送3社が実施した選挙当日の出口調査を見ると、尹氏を支持した男性は20代58.7%、30代52.8%で圧倒的であった。一方、尹氏を支持した女性は、20代33.8%、30代43.8%と少なかった。いわゆる「2030世代」の男女は今回の選挙で完全に分断状態を現した。2030有権者数は1327万人で全体の30%であるので、この「2030男性」の選択は尹氏の当選に決定的な影響を与えたと言える。

なぜこのように男女間で分断が生まれたのか。元々、男女平等の実現を政治的信念として、さらにキリスト教信仰に基づいた悲願と考えた金大中元大統領は、就任した1998年、大統領直属女性特別委員会を設置し、2001年1月29日には「女性部」を誕生させた。李姫鎬(イ・ヒホ)大統領婦人も、メソジスト教会の女性長老であり、女性問題研究院幹事、大韓YWCA連合会総務を務めるなど、韓国社会の代表的な女性人権運動家だった。

最初は男女平等を強調するいわゆる「リベラル・フェミニズム」が主流であり、大衆全般もこの動向について友好的であった。しかし、家父長的な儒教や軍隊の影響が強い韓国社会において、漸次「ラディカル・フェミニズム」の立場がより勢力を広めてきた。このグループは男女関係を政治的なものとし、男性を抑圧者、潜在的加害者と考え、男女の利害は競合・敵対する問題として扱う。その結果、韓国では男性からの加害行為や言説をそのまま反射(ミラーリング)する傾向が強くなった。過激な男性嫌悪サイト「メガリア」の登場もその結果であった。男性による抑圧を「女性による男性嫌悪」から対処し、対抗する場だった。これは再び若年男性を刺激し、フェミニズムへの誤解を拡散させ、男性による女性嫌悪を強化した。また若年女性の社会進出と活躍の本格化は、それに圧倒された若年男性が感じる女性への被害意識も強化した。

「メガリア」サイト(現在は閉鎖)のロゴは、男性の性器の大きさを嘲弄する手指のジェスチャーをイメージしている。

男女相互が敵対する中、「ラディカル・フェミニズム」はLGBTQへの嫌悪を強める悪循環に至る。2020年1月、ある手術を受けたトランスジェンダー女性が淑明女子大学の法学部に合格したが、それを聞いた六つの女子大学内のフェミニストサークルがその学生の入学反対運動を始め、嫌悪発言及び誹謗を続け、結局その学生は進学を諦めることになった。同時に、韓国の陸軍の副士官であったビョン・ヒスさんは休暇中にトランスジェンダー手術を受け、その後女軍の部隊への転職を申請したが、国防部はそれを拒否、2020年1月23日に強制除隊させた。衝撃を受けたビョンさんは、3月3日に自死した。『ソウル新聞』はこれについて「急進派フェミニズムは性少数者への嫌悪のみを活かした」と指摘した。

このようなフェミニストによるセクシュアル・マイノリティへの嫌悪は、多数の保守的な韓国キリスト教に支えられている。一方、女性の権利を守るため他の少数者を排除する極端な運動には再考が求められるという意見も多い。韓国の「2030世代」の男女分断の傾向は、フェミニズムはもちろん性少数者のイシューを含む今後の韓国社会及び韓国キリスト教の未来を見定めるために、分析すべき重要な課題であることは間違いないだろう。

 

ほん・いぴょ 1976年韓国江原道生まれ。延世大学大学院修了(神学博士)、京都大学大学院修了(文学博士)。基督教大韓監理会(KMC)牧師。2009年宣教師として渡日し、日本基督教団丹後宮津教会主任牧師などを経て、現在、山梨英和大学の宗教主任。専門は日韓キリスト教史。

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