改宗を迫られる東マレーシアの先住民 葉 先秦 【東アジアのリアル】

マレーシアは圧倒的にイスラム教徒が多い、という印象が一般的に強いかもしれない。確かに、同国の人口の60%以上がイスラム教徒であり、特に全人口の半数以上を占めるマレー人は、憲法第160条でイスラム教徒であるべきことが規定されている。しかし、これは西マレーシア(マレー半島)の宗教状況であり、東マレーシア(ボルネオ島)の状況は異なっている。

東マレーシアのサラワク州やサバ州は、半島ほどイスラム教徒が多くなく、マレー人の割合も高くない。特にサラワク州ではキリスト教徒が42%を占め、イスラム教徒の32%より多い。同州には華人のキリスト教徒の他に先住民のキリスト教徒もおり、特に同州北東部の高地とインドネシアの東カリマンタン州との境界に住む「ケラビット族」は、明確にキリスト教をアイデンティティの象徴としている。彼らは元来、長屋を中心とした血縁関係を重んじる共同体であったが、キリスト教の伝来により、長屋の社会的・経済的役割に代わって、教会が集団生活の中心となり、現在では同民族のすべての村落に教会がある。

赤色部左が西マレーシア(マレー半島)、右が東マレーシア(ボルネオ島)

ケラビット族と東マレーシアの他の先住民は、憲法上はマレー人と同様に「現地民」(ブミプトラ)と位置付けられており、特別な権利が保障されているが、実際にはマレー人のほうが他の先住民よりも社会的地位が高い。こうした非マレー系の「現地民」(特に非イスラム教徒)は、奨学金や福利厚生を申請する際、イスラム教に改宗しない限り、マレー人より不利になる場合が多い。そのため、ケラビット族をはじめとする非イスラム教徒の東マレーシアの先住民たちは、近年、イスラム教への改宗を迫られている。特に一部のイスラム教組織は利益をちらつかせて彼らを勧誘する方策を講じ、先住民の牧師たち(特に生活環境が良くない者たち)を入信させようとしたり、時には信徒も含めて集団改宗がなされたりもする。

また2010年には、ケラビット族とルンバワン族の6人の生徒が、学校の成績表の「民族」欄を一方的にマレー人に変更させられる事件があった。このような傾向は、国際的なイスラム復興運動に触発された「イスラム化」の動きと密接に関連している。

さらにマレーシア社会では、イスラム教徒と非イスラム教徒の間での婚姻関係における改宗や「棄教」が、多くの家族問題を引き起こしている。例えば、非イスラム教徒の夫が突然イスラム教に改宗した場合、未成年の子どもたちもそれに従って改宗しなければならない。

マレーシアでは非イスラム教徒だけが改宗する権利を持つのだが、それは言い換えるならば、イスラム教徒になった人は、他の宗教への改宗の許可を得ることはほぼ不可能ということだ(仮に改宗しても、それは「棄教」と呼ばれてしまう……)。こうした出来事は、バリオという地域のケラビット族の村落で実際に起こったことがあり、他の民族でもよくあることだ。もしケラビット族や他の民族の人がマレー人と結婚すると、前者はイスラム教に改宗して宗教や民族的アイデンティティを失うことになる。こうした改宗者は、服装を変え(ヒジャブなど)、ハラルの食事規定の関係から出身地の自分の家族との食事すら拒否しなければならず、従来のコミュニティーのメンバーとの接触も絶たなければならない。こうしたことから、非イスラム教徒の先住民は、信仰の自由が徐々に損なわれ、最終的には民主主義が神権政治に取って代わられてしまうのではないかとさえ懸念しているのだ。

ケラビット族(Webサイト「kelabitty.blogspot.com」より)

このような脅威に対して、ケラビット族はさまざまな対応をしてきた。1998年のある学者の調査によれば、ケラビット族はキリスト教と教育普及とを意図的に利用して、民族的アイデンティティとコミュニティー内の境界を強化しているという。ある者は、自分たちのキリスト教伝統を守るために、イスラム教の布教活動を禁止すべきという過激な主張をする人もいるが、大多数のケラビット族はそれを支持せず、むしろ祈りや政治活動を通して、「地の塩・世の光」としてマレーシア社会に参与しようとしている。

マレーシアの「先住民」に位置付けられている各民族は、マレー人と同じ権利と保護を共有していると思われがちだが、実情は大きく異なっているのだ。現地の華人やインド系民族に比べて、こうした先住民に対する改宗圧力は大きい。

筆者の知人で東マレーシア出身のある先住民牧師は、西マレーシアで最もイスラム色の強いクランタン州に赴いて奉仕している。というのも、大学進学のために同州に移った先住民のキリスト教徒たちの信仰を守り、彼らがイスラム教に改宗させられるのを阻止する必要があるからだ。

今後も、東マレーシア先住民の生存と信教の自由を注視していきたい。(翻訳=松谷曄介)

葉 先秦 Iap-Sian Chin 1981年生まれ、台湾新北市出身。中原大学(台湾・桃園市)修士課程で、ペンテコステ派の神学と歴史の研究。政治大学博士課程で真耶?教会をテーマに博士号。現在、政治大学華人文化主体性研究所特任研究員。

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