細川忠興(望月歩)とガラシャ(芦田愛菜)の間に生まれた子どもの生涯と、その信仰について今回から見ていきたい。
ガラシャは、夫の忠興(ただおき)との間に5人の子どもをもうけている。結婚した翌年の1579年には長女の長(ちょう)、80年に長男の忠隆(ただたか)、83年に次男の興秋(おきあき)、86年に三男の忠利(ただとし)、88年に次女の多羅(たら)だ。
82年に「本能寺の変」が起き、ガラシャは幽閉されるが、その時までに誕生していた長はまだ3歳、忠隆は2歳だった。かわいい盛りの子どもと引き離されて、2年間を過ごしたことになる。ただ、興秋はその幽閉中に生まれ、忠利は幽閉が解けてから、多羅はガラシャが洗礼を受けた後に生まれた。
まず今回は長男の忠隆を見ていこう。
ガラシャが亡くなった時、子どもたちは20歳から12歳になっていたが、世継ぎと思っていた長男がその後思いがけず廃嫡(はいちゃく)されてしまい、次男を差し置いて三男が後を継ぐことになるとはガラシャも想像していなかったに違いない。それは、夫の忠興が感情的な性格だったことも一つの原因であり、息子たちはそれに翻弄(ほんろう)され続けるのだ。
ところで、1587年にガラシャが洗礼を受けた時、すでに4人の子がいたが、豊臣秀吉(佐々木蔵之介)が「バテレン追放令」を出したばかりだったので、子どもたちにすぐに幼児洗礼を授けてはいない。ただ、二人の娘はのちに信仰を持ち、キリシタンとして生き抜いた。3人の息子については、宣教師の史料に名前が書かれていないので確認はできないが、おそらく次男の興秋、あるいはもう一人、三男の忠利が洗礼を受けたと考えられる。
長男の忠隆は、「関ヶ原の戦い」前後までは、嫡男(ちゃくなん)として忠興の後継者と目されていた。1587年、忠隆が7歳の時に羽柴という名字であったことが確認されているように、少年時代から秀吉のそば近くで仕え、1597年、秀吉の盟友である前田利家(まえだ・としいえ)の七女、千世(ちよ)と17歳同士で結婚している。その前田家には、秀吉に棄教するよう命令されたのに従わず大名をやめたキリシタンの高山右近が客将としていたので、ガラシャにとってもその縁組みはきっと心強かったに違いない。
しかし、「関ヶ原の戦い」で忠興や忠隆らが出陣して留守になっている間に、ガラシャは人質に取られそうになって自ら死を選んだ一方、嫁である千世は、ガラシャが逃げるように勧めたこともあるが、実姉の豪姫(ごうひめ)が嫁いだ隣接する宇喜多秀家の屋敷に匿(かくま)ってもらい(『細川家記』)、その後、実家である前田家に逃れた。忠興はそれに激怒して、忠隆に千世と離縁することを迫るが、忠隆がそれに従わなかったために廃嫡されるのだ。あるいは、徳川家にとっても、秀吉にかわいがられた忠隆は信用できなかったのかもしれない。
その後、忠隆は長岡休無(ながおか・きゅうむ)と号して京で隠居生活を送り、のちに忠興と和解するものの、66歳で亡くなるまで細川家とは距離を置いていた。
この忠隆の直系の子孫が細川隆元(たかちか)、細川隆一郎(りゅういちろう)とその子である細川隆三(りゅうぞう)、珠生(たまお)であり、みな政治評論家として有名だ。ちなみに珠生はカトリック信者で、洗礼名は「ガラシャ」。
この系譜は、忠隆が千世と離縁して再婚した後にもうけた子どもからの流れだが、千世との間にできた長女の徳は、公卿である西園寺実晴(さいおんじ・さねはる)と結婚し、それが現在の天皇陛下へとつながるという。そして、途中でそれが枝分かれして、明治天皇の玄孫(やしゃご)で政治評論家の竹田恒泰(たけだ・つねやす)に行くという系譜もある。(10に続く)
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