【Web連載】「14歳からのボンヘッファー 」(10)アドヴェントの心得 福島慎太郎

クリスマスシーズンも終盤に差し掛かり、街はネオンで彩られ、誰もが冬の代名詞を待ち遠しく思っている。教会はクリスマスまでのシーズンを「アドヴェント」、日本語では「待降節」と呼び、皆で救い主の誕生のお祝いを準備する。

一方この期間を終えると、教会も街もそそくさと新年に向けて風景が変わる。教会でも1カ月のこの期間を経てクリスマスが終わると、すぐに新年に向けて装飾を取り外す。

装飾だけならまだしも、心の中でも「アドヴェント終わりか〜」くらいのぼんやりしたイメージかもしれない。

でもこの期間、私たちが何を待ち望み、それがどのような意味を持つのか知るならば、待降節はまさにキリスト教信仰の核であると気づかされるかもしれない。

キリストは一人でこの世界に突然生まれ落ちたのではない。そこには母マリアの存在がある。プロテスタントでは聖人という考えがないため、マリアもまた一般人という認識だ。その教理自体に何か問題があるわけではない。しかし、ボンヘッファーはイエスを身ごもった彼女の現実そのものに衝撃を受ける。

 神がマリアを道具として選んだということ、神がこの世の卑賎の中に歩もうと決意したということは、決して牧歌的・家庭的なことではなく、この世のあらゆる事態の完全な転換の始まり、この世のあらゆる事態の完全な始まりを意味する。

神とははるか雲の上から人々に指示を下す存在として捉えられがちだ。そうじゃない、という話を聞きつつも、実際は果てしなく遠い場所にいる人というイメージは拭えない。しかし、イエスが生まれようとする西暦0年の待降節、まさにその概念は破壊されたのだ。

マリアがイエスを身ごもったのは神秘的な母や理想の家庭像を伝えたいからではない。まさに神の現在進行形に人が組み込まれた、一人の人生に神が介入され、彼女にしかできない役割を与えたのだ。このことをボンヘッファーは「あらゆる事態の転換」と呼んだ。

 もし、このアドベントの出来事に参加しようとするなら、われわれは傍観者として傍らに立ち続け、あらゆる光景にただ感嘆するだけでいることはできず、われわれ自身、この行為の中に、このあらゆる事態の転換の中に巻き込まれるであろう。

あらゆる事態は転換した。アドヴェントとは、救い主が生まれることを待つとは、人がただの傍観者から、その人にしか描き出せない景色と物語を神と共に担う存在になる決定的な瞬間なのである。

UnsplashのMario Losereitが撮影した写真

だからアドヴェントは祝うものではなく、参与するものである。ボンヘッファーは最後にこう語る。

 すべてのものの主であり、創造主である神自身が、ここで小さな者となったのであり、この世のみすぼらしさの中に歩んで来たのであり、われわれのうちで無力な幼な子となったのだからである。そしてさらに、これらすべてのことがわれわれを美しい物語で感動させるために起こったのではなく、〈神が人間的な高みにあるすべてのものを撃ち砕き、その価値を無にし、低いところに神の新しい世界を造ろうとしている〉ということにわれわれを気づかせ、そのことにわれわれが驚き、われわれが喜ぶようになるために起こったのだからである。

アドヴェントとは驚きであり、喜びである。人の子がこの世界に生まれるとは絵本の物語でもどこかの国の伝承でもなく、神がこの場所に新しい世界を造ろうとする歴史を変える出来事なのである。そして神の子を待ち望むとは、まさしくその世界へ神が人を招こうとしている期間なのである。だから私たちはこの期間、ただ見守るのではない。神がすでに私たちへ期待を寄せ、神の物語へ参与する生き方へ招いている。

もう、私たちはキリストが生まれるまでを眺める者ではない。クリスマスの物語を通して、神は激しく人々の心を震わせる。もはや立ち止まるのではなく、神の言葉を聴き、あなたにしかなし得ないことをせよと期待するお方がいる。

アドヴェント、まさしく決定的な事態の転換が、今この瞬間起こっている。

 ふくしま・しんたろう 牧師を志す伝道師。大阪生まれ。研究テーマはボンヘッファーで、2020年に「D・ボンヘッファーによる『服従』思想について––その起点と神学をめぐって」で優秀卒業研究賞。またこれまで屋外学童や刑務所クリスマス礼拝などの運営に携わる。同志社大学神学部で学んだ弟とともに、教団・教派の垣根を超えたエキュメニカル運動と社会で生きづらさを覚える人たちへの支援について日夜議論している。将来の夢は学童期の子どもたちへの支援と、ドイツの教会での牧師。趣味はヴァイオリン演奏とアイドル(つばきファクトリー)の応援。

【Web連載】「14歳からのボンヘッファー 」(9)綺麗事で聖書を読んでいませんか? 福島慎太郎 2023年11月2日

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