庭野平和財団(庭野浩士理事長)は2月21日、第39回庭野平和賞を南アフリカ聖公会司祭(聖使修士会)のマイケル・ラプスレー氏に贈ることを発表した。同賞は、宗教協力を通じて世界平和の実現に顕著な功績を挙げた人・団体を表彰するもの。
ラプスレー司祭は1949年、ニュージーランドの敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれた。オーストラリア聖公会で司祭に按手、聖使修士会(SSM)に入会。1973年、24歳で南アフリカに派遣され、アパルトヘイト撤廃闘争に参加。ダーバン大学チャプレンとして、黒人、白人両方の学生と深く関わる。76年、南アフリカを追放され、レソト、さらにジンバブエに移住。幾度にもわたる暗殺の危機を免れてきたが、90年、盟友であるネルソン・マンデラが獄中から解放された3カ月後、手紙爆弾により両手と右目の視力を奪われる。その後、98 年、「記憶の癒し研究所」を設立。以来、自身も痛みや傷を負った治癒者として、南アフリカにとどまらず、国や宗教の違いを超えて、世界の人々の痛みの記憶を希望に変える、癒しのワークショップを展開している。
同財団はラプスレー司祭の活動について特筆すべきこととして、「その取り組みの対象を人種差別主義の基盤をなす経済や政治的側面のみに限定せず、社会的差別に起因する不正義がもたらした敵意、憎悪、その他の社会的・心理的影響に対処すべく、癒しのプロセスを強調した点」を挙げ、国内だけに留まらず、米国の同時多発テロの犠牲者の家族らと共に「キューバの友人」や「国際平和ネットワーク」を設立するなど、国境を超え有効で非暴力的な手段によるテロ対策活動を展開してきたことを評価。
「彼の言葉は、キリスト教に基づきながらも普遍的であり、あらゆる宗教に通底する響きを持つ。対話と和解、そして正義の回復に向けたアプローチを基盤に、非暴力かつ諸宗教に通ずる平和構築の努力と癒しの活動を続けることで、……南アフリカ国民のみならず世界中の多くの人々に癒しを提供し」、「平和構築と宗教協力の推進に多大な貢献を果たして」きたことを贈呈の理由とした。
ラプスレー司祭は「このたびの受賞は、私だけでなく数多くの私の同胞たちが、この賞の栄誉に浴することを意味する。私の⽗の年代の⼈々は⽇本との戦争を経験した。息⼦である私がこの平和賞をいただくことに、特別な意味を感じる。過去の傷を癒すことが世界の平和に不可⽋であることを認めていただくことができた」と喜びのコメントを寄せた。
2015年に来日した際には、「私たちは互いの痛みに耳を傾け、なされたことが悪であることを認めなければいけない。癒しが始まるのは国の歴史と、自分たちの親や祖父母に起こったことが道徳的および霊的障害と同じく世代を超えたトラウマを引き起こしたと認めることができた時だ」と訴えていた。
贈呈式は6月14日に行われる予定。ラプスレー氏には正賞の賞状のほか、副賞として顕彰メダルと賞金2000万円も贈られる。
庭野平和賞にはこれまで、ヘルデル・ペソア・カマラ大司教、世界教会協議会(WCC)のフィリップ・アルフレッド・ポッター元総幹事、ルーテル世界連盟(LWF)のムニブ・A・ユナン議長など、キリスト教関係者も複数選出されている。