「これ、もう読みましたか?」2021年12月のある日、知人から1通のメールが届いた。不思議に思いつつ確認するとその内容に震撼させられた。いよいよ来たか。そのような思いだった。
このメールは「互聯網宗教信息服務管理方法(インターネット宗教情報サービス管理方法)」に関してであった。当規則の原文と共にこれが2022年3月1日から施行されるという通知であった(詳細は2022年1月21日付本欄、倉田明子「宗教統制の進む中国 香港への影響は」を参照)。
この新規則は2018年に出された草案が基礎となっている。しかし依然として表現があいまいである。どのような行為が法に抵触するのか分からない。突然取り締まられる可能性すらある。恐怖心が今、教会関係者を覆っている。だが、同時に友人たちは「様子を見るしかない」とも述べる。
なぜ、このタイミングでの通知なのであろうか。教会関係者の間ではさまざまな憶測が飛び交っている。2022年が中国にとって極めて重要な1年となるからであろうか。2月4日より開催された北京冬季オリンピック。そしてその後のパラリンピックもあれば、秋には今年の最大イベントとなるであろう5年に1度開催される党大会が予定されている。それ故に社会秩序の維持は絶対である。威信をかけても失敗は絶対に許されない。
監視体制の強化はコロナ感染防止も相まって既に教会の礼拝にも多大な影響を及ぼしている。カトリック教会の正門脇にはアプリ読み取り用のQRコードと通知書が貼られている=写真上(A.Z.)。周知のとおり、中国ではスマホのアプリで人々の行動範囲やワクチン接種及びPCR検査結果を厳格に一括管理している。だが最近では、教会堂に入るためにもアプリで事前登録し、確認されてからでなければならなくなった。ワクチン接種などの個人情報を提供しなければ教会堂に入ることができない。公認教会の三自愛国教会もコロナ感染予防と目して礼拝者には事前登録を義務付けている。教会の自由な扉は依然として固く閉ざされているのだ。
これには不安を感じる人も多くいる。個人情報が恣意的に操作されないだろうか、と危惧されるのだ。すると、先月NYタイムズ紙がある報道を行った(2022年1月30日)。人権派弁護士が空港で足止めされ、移動が制限されてしまったというのだ。健康コードアプリが恣意的に操作された嫌疑があるという。だが、それは明徴されない。一体何が起こったのであろうか。
こうした状況は、日本では理解し難いかもしれない。しかし、『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐・高口康太、NHK出版新書)や『中国の行動原理』(益尾知佐子、中公新書)などを見ると社会全体の監視と規制を強化し社会秩序を維持しようとする一連の動向は至極当然のことと言えるのかもしれない。
今後は監視が再強化され、ネット統制が一層加速化される。今から賢く備えよ。これが現地の教会指導者たちの共通認識だ。ある老婦人は私にこう語った。「個人情報がどう扱われるかは心配。とにかく早くコロナもオリンピックも終わって、以前のような平穏な自由な日々が戻ってきてほしい。普通に教会の礼拝に行くことが待ち遠しい」。ため息をつきながらそう吐露していた姿は印象的であった。
極度の監視下にある中国のキリスト者たちだが、彼女たちの間ではこの「冬」を乗り切ろうと静かに燃え続ける信仰がある。「あなたがたは蛇のように賢く、鳩のように無垢でありなさい」(マタイによる福音書10章16節)とのみ言葉が今なお力強く迫ってくる。今後どのような事態になるのか分からないが、不測の事態にも対応できる備えが整えられるように、我々日本においてもますます祈る必要があるだろう。
遠山 潔
とおやま・きよし 1974年千葉県生まれ。中国での教会の発展と変遷に興味を持ち、約20年が経過。この間、さまざまな形で中国大陸事情についての研究に携わる。国内外で神学及び中国哲学を学び修士号を取得。現在博士課程在籍中。