【映画評】 コロナ禍中に古典を観る 『田舎司祭の日記』『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」「カトリーヌ・スパーク特集上映」

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新型コロナウイルスが猛威を奮い続けるなかで、多くの業種同様、映画館もまた窮地に立たされすでに久しい。実は感染防止対策の徹底が恒常化した2020年夏以降、日本国内映画館でのクラスター発生は1件も報告されていない*。にもかかわらず時に休業を強いられ収支予測もままならない状況下にあって、映画館による目を引く工夫の一つに、古いフィルム作品のリバイバル上映がある。2020年夏ごろにはジブリのアニメ作品が全国的にロングランを続けたことも記憶に新しいが、昨今ではより質実で個性的な企画上映も増え始めた。

なかでもまず紹介したいのが、『田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版』。北フランスの寒村で、村人たちの俗物性に神経を消耗させられる新任司祭の魂の叫びを描く本作は、震えるほどにスタイリッシュな映像手法〝シネマトグラフ〟により戦後の欧州映画界へ君臨した監督ロベール・ブレッソン初期の作品だ。

4Kデジタル・リマスター、4Kレストアといった言葉を国内メディアで目にするようになったのは10年ほど前からだが、フィルム時代の古典的名作をデジタル処理し劇場上映するこの潮流の中核には、アメリカ映画の巨匠マーティン・スコセッシがいる。古いフィルムの4Kリマスター工程は、デジタルスキャン後にフィルム1コマ単位での手作業による確認・修復を要するため、イメージに反し多大なコストが発生する。スコセッシ起草の財団フィルム・ファウンデーションは、使命感を以てサイレントやアジアの作品を含む世界の古典的フィルム作の4Kデジタル化を進めるが、当のスコセッシ代表作『タクシー・ドライバー』が最も影響を受けた作品としてブレッソン『田舎司祭の日記』の存在は知られてきた。劇場公開自体が日本初となる本作、その透徹した映像美には終始圧倒される。

技術的困難を超え古いフィルムが命を得た注目例として、『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』も見逃せない。ロサンゼルスのバプテスト教会の天井を突き抜けるゴスペルの歌声に、聴衆が地響きで応答する。ソウルの女王が、実父である著名牧師の前で見せる少女のような照れ笑い。1972年のこの日収録された音源はアルバム化され300万枚の大ヒット作となるも、映像はなんとその後47年もの間保管庫に眠り続けた。当時ドキュメンタリーの製作は未経験であったシドニー・ポラック監督が、撮影のスタートとカットを知らせるカチンコを使用し忘れたためで、デジタル技術が進化する今日までどんな神業編集技師にもこのミスを埋めることは不可能だった。

この春にリバイバル上映される特集企画としては、《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2》と《SPAAK!SPAAK!SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ》も併せてお薦めしたい。

スピルバーグやトム・クルーズなど熱烈なフォロワーを生み、また『ルパン三世』や『シティハンター』など、日本アニメにも甚大な影響を及ぼしたジャン=ポール・ベルモンドのアクションは現代の目にも迫力満点なうえ、『リオの男』ではアマゾン川と建設途上の世界遺産首都ブラジリアを、『カトマンズの男』は中国江南からインド中部へ至るアジアの雑踏を映り込ませ、コロナで逼塞を迫られた私達の心に一陣の風を吹かせてくれる。

カトリーヌ・スパークはパリ生まれパリ育ちながら、黄金期のイタリア映画界で10代にして大ブレイクを遂げ、アンナ・カリーナ他のちの少女アイコンの雛形となった。男を惑わす魔性の煌めき放つ彼女を映すレンズの基底には、アドリア海対岸に広がる共産圏への恐れや不安に惹起されたイタリア社会の狂騒への欲望が見え隠れする。今日、恐れや不安の対象はより沈潜し目に見えにくいものと化した。コロナ禍の脅威に人の眼は何を映すのか。古典的名作をいま観る意義は小さくない。
(ライター 藤本徹)

『田舎司祭の日記 4Kデジタル・リマスター版』 “Journal d’un curé de campagne” “Diary of a Country Priest”
公式サイト:https://inakashisai2021.jp/
6月4日(金)より新宿シネマカリテ他にて全国順次公開

『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』 “Amazing Grace”
公式サイト:https://gaga.ne.jp/amazing-grace/
5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2》
公式サイト:https://belmondoisback.com/
5月14日(金)より新宿武蔵野館ほか全国にて順次ロードショー

《SPAAK!SPAAK!SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ》
公式サイト:http://www.spaak2021.com/
5月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

*全国興行生活衛生同業組合連合会2021年5月6日付声明「緊急事態宣言の延長に伴う映画館・演芸場への休業要請に対して」 → https://bit.ly/3yBM2d4

本稿筆者による《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2》作品別連続ツイート:

本稿筆者による《SPAAK! SPAAK! SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ》作品別連続ツイート:

オンラインで語り合う「映画カフェ」 「ゴスペル」の背景テーマに第1回 2021年5月12日

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