樋口進氏、「聖書協会共同訳」について語る(1)

 

新翻訳聖書セミナーが6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で開かれた。そこで、「聖書協会共同訳」についての講演を、翻訳者・編集委員である樋口進(ひぐち・すすむ)氏(夙川学院院長)が行った。その内容を連載でお届けする。

樋口進氏=6月24日、松山ひめぎんホール(愛媛県松山市)で

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聖書は元来、旧約がヘブライ語(一部アラム語)、新約がギリシア語で書かれています。しかし、キリスト教会は最初から、「いつの時代でも、どこの地域の人でも」聖書が読めることを願ってきました。そこで聖書は、あらゆる時代に、あらゆる地域の言語に翻訳されてきました。

キリスト教の歴史は、聖書翻訳の歴史と言っても過言ではないと思います。事実、聖書は、世界中のあらゆる言語に翻訳され続けています。聖書協会の2013年の統計では、その翻訳言語数は2551の言語というから、驚きです。今回の『聖書協会共同訳』も、この「いつの時代にも、誰にでも」読めることを目指すという流れにあります。

1 聖書翻訳の歴史

歴史において、多くの聖書翻訳の事業がなされてきましたが、そのごく一部を紹介しましょう。

a)七十人訳(LXX)

紀元前3世紀、ヘブライ語の旧約聖書がギリシア語に翻訳されました。そのいきさつが偽典の「アリステアスの手紙」に伝えられています。それによりますと、エジプトのアレキサンドリアに72人(各部族より6人ずつ)の学者が集められ、72日でトーラー(律法)がギリシア語に翻訳されたということです。その当時、アレキサンドリアのユダヤ人はヘブライ語が読めなくなっていたからです。その後、紀元1世紀までにトーラー以外の書も順次訳されていったということです。キリスト教では、もっぱらギリシア語訳で旧約聖書が読まれました。

b)ウルガタ(ラテン語訳)

これは、現代に至るまでローマ・カトリック教会の公認聖書とされています。ヒエロニムスが紀元4世紀後半より5世紀初頭にかけて旧約聖書をヘブライ語から、新約聖書をギリシア語から翻訳しました。一時期、ベツレヘムの洞窟で翻訳の仕事を集中して行ったということです。その途上、支えてくれていた女性が死んだので、その頭蓋骨を机に置いて翻訳したという言い伝えもあります。

このラテン語訳は非常に優れた翻訳として定評がありますが、誤訳もありました。出エジプト記34:29で、「モーセの顔が光を放っていた(ヘブライ語で「カーラン」という語)」というのを「顔に角(ヘブライ語で「ケレン」という語)が生えていた」と訳しました。そこで、ミケランジェロの傑作である「モーセ像」には、角が2本生えています。

c)ルター訳

マルティン・ルターは1517年に宗教改革を起こし、21年にヴォルムスの国会に喚問され、身の危険が迫りましたが、ワルトブルグ城に保護されました。そのとき彼は、一般民衆がドイツ語で聖書を読めるように、新約と旧約をそれぞれ原典からドイツ語に翻訳しました。これは、当時発明されたグーテンベルクの印刷術によって瞬く間にドイツ中に普及し、大きな影響を与えました。ルター訳ドイツ語聖書は、現在でも広く使われています。

d)The King James Version(KJV、欽定訳)

1607年に英国王ジェームズ1世の命により54人の改訳委員が選ばれ、分担翻訳し、10年に完成し、11年に出版されました。格調高い英語で表され、非常に普及していますが、翻訳上の問題も多く、1983年に改訂版が出されました(New King James Version)。

e)Revised Standard Version(RSV、改訂標準訳)

カナダとアメリカの40のおもな教派が委員会を形成して作られたもので、新約が1946年、旧約が52年、全訳が57年に完成しました。当時の最高の学識によったもので、名訳とされています。また、これを現在の聖書学の成果を取り入れて全面改訂した版が1990年に出されました(New Revised Standard Version)。

g)日本語訳

①1835年、ドイツ人宣教師ギュツラフが日本人漂流民(岩吉、久吉、音吉)の助けによって中国で訳した日本語最古の聖書が「ギュツラフ訳」です。これは、三浦綾子の『海嶺』という小説にも紹介されています。ヨハネによる福音書の冒頭は、「ハジマリニカシコイモノゴザル、コノカシコイモノゴクラクトモニゴザル、コノカシコイモノワゴクラク」と訳されました。

②聖書協会が出版したものとして、「文語訳」が1887(明治20)年、「大正改訳」が1917(大正6)年、「口語訳」が55(昭和30)年、「新共同訳」が87(昭和62)年に出されました。

③その他の日本語訳としては、「新改訳第3版」が2003年、「岩波訳」が07年、「フランシスコ会訳」が11年、最新のものとして、昨年、「新改訳2017」が出されましたが、それぞれ特徴のある、いい翻訳聖書だと思います。(つづく

 






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