【日本YWCA】 あなたと共に素敵な朝を! 公文和子(シロアムの園・代表)

「仕える」から「共に生きる」へ  

「グッド・モーニング、グッド・モーニング、グッド・モーニング・トゥ・ユー!」

シロアムの一日はこの歌で始まります。どんな苦しい日々を過ごしていても、この朝、子どもたちとその家族が「グッド・モーニング(素敵な朝)」と言えるような時を過ごしてもらいたい、というたくさんの人たちの祈りと願いに支えられて――。

クリスチャン家庭に育った私は小さい頃から、「人に仕える」ことを家庭や教会学校で学んできました。医者という職業を選んだこともそのためでした。学生時代には養護施設でボランティア活動に励み、離島で検診、バングラデシュへのスタディツアー、医者になってからも日本YWCAのボランティアでパレスチナに行くなど、人に仕えることを「当たり前」のように経験してきました。しかし、2000年、いざ海外で仕事として働くようになった時、「ボランティア経験」とは違い、私はいったい誰のためになぜここで生きているのだろう、という課題に直面して10年くらい悶々と過ごしました。そのような時に出会ったのが、ケニアの障がいのある子どもたちです。たくさんの困難を抱え、折れてしまいそうになりながらも見せてくれる、命を喜ぶ笑顔と希望があふれる瞳。一瞬で恋に落ちました。この子たちと共に生きよう。あえて「人に仕え」なくても、愛する人たちと共に生きればよいのだと、気持ちが軽くなりました。

そうして準備を進め、さまざまな方の支援のもと2015年「シロアムの園」が始まりました。

みんなで一人ひとりに寄り添う

ケニアでは、障がいのある子どもたちが生きていくのはとても大変なことです。必要な医療や教育を受けることができず、根強い差別や偏見にさらされ、経済的にも苦しい生活を余儀なくされています。そのような社会的な問題によって家庭は崩壊し、シロアムの子どもたちの半数近くは片親もしくは祖母に育てられています。また、教会や親戚の集まりに行きたくても交通インフラや車いすなどの機材が整わないことに加えて、差別や偏見にみちた社会の目が気になり参加するというオプションがない、そのような中で、多くの子どもたちは毎日を家の中で過ごしています。体を自分で動かせない子どもたちは天井だけを見ながら。

現在シロアムの園には、1歳から15歳までの約50名の子どもたちとその家族が通園しています。脳性麻痺、発達障がいなどさまざまな障がいがあり、重症度も違い、一人ひとりのニーズや目指すことも全く違いますが、それぞれにとって必要なことを、みんなで一緒に考え、応えていきます。小児科医である私、作業療法士、理学療法士、特別支援教師、保育士、ソーシャルワーカー、カウンセラーなど異なる専門のスタッフが、それぞれの持っているものを持ち寄ってチームで働きます。そのチームの中心は子どもたちと家族です。

豊かなコミュニケーション

ジェフ君は2015年に8歳でシロアムの家族に加わりました。生まれた時すぐに泣かず、重い黄疸の治療が適切に行われなかったために脳性麻痺となりました。筋緊張がとても強くつっぱることもあれば、逆に弱すぎて抱っこさえも大変な時もあります。視覚や聴覚がいっさい機能していないのか、と思うほど反応がない時もあり、表情もほとんどありませんでした。そんなジェフ君がお母さんと一緒にシロアムの園に通園するようになり、リハビリや医療、クラス活動、グループ療法などに参加するようになりました。2016年のクリスマスの降誕劇では、ジェフ君は飼い葉桶で眠るイエス様の役をしました。しかしマリア役、ヨセフ役、星役をした重い障がいのあるクラスメートたちが1~2年のうちに次々と亡くなりました。そんな時、お母さんからシロアムをやめたいと打ち明けられました。3年間通っていたジェフ君にはあきらかな改善もなく、周りの子どもたちも亡くなり、お母さんは希望が見えなくなっていたのです。私たちにできることは、お母さんの話を聴くこと以外、何もありませんでした。しかし、その時間を通して、私たちはお母さんやジェフ君の気持ちをもっと感じることができるようになりました。そしてお母さん自身も再び私たちと共に歩みたいと思ってくれるようになったのです。そのジェフ君はここ数年、歩いたりしゃべったりしなくても、嬉しい時には素晴らしい笑顔を見せてくれるようになりました。苦手な絵本読みの時には目を閉じ、親子遊びなどの好きな遊びや、大好きなスタッフが話しかけると、ぱっちりと目を開けて満面の笑顔になります。

希望を与えあう関係

先が見えない暗闇の中にある時に希望を持つことは、とても難しいことです。その暗闇では、予測のつかない未来に対する不安に心を奪われ、予測もつかないまま「待つ」という苦痛を経験します。その時に、一緒に待ってくれる人、心配してくれる人、心を込めて寄り添ってくれる人、愛してくれる人がいることによって、希望が生まれます。そして、その希望が、寄り添う人にも希望を与えるのです。「共に生きる」とは、そのように希望を与えあう関係だと感じます。

光であるイエス・キリストの誕生であるクリスマスは、冬至という最も闇が長い時に訪れます。この闇の中にあっても、「グッド・モーニング・トゥ・ユー」を歌いながら、夜明けの光に喜びを感じ、希望を膨らませていきたいと思っています。

プロフィール

公文和子
 くもん・かずこ 1968年、生まれ。88年、北海道大学医学部入学。94年、卒業。小児科医として働き始める。2000年、博士号取得。英国リバプール熱帯医学学校に留学。01年、修士(熱帯小児医学)取得。シエラレオネ、カンボジアでの病院勤務を経て、2002年からケニアで活動。JICA(国際協力機構)専門家などを務めた。また、国レベルでドナー間の調整、保健システム強化の活動、現場でのHIV/AIDSに関する人材育成、スラムの公衆衛生プログラムなどを実施。15年「シロアムの園」を設立、代表を務める。著書に『グッド・モーニング・トゥ・ユー』(いのちのことば社)。

出典:公益財団法人日本YWCA機関紙『YWCA』12月号より転載


YWCAは、キリスト教を基盤に、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、女性の社会参画を進め、人権や健康や環境が守られる平和な世界を実現する国際NGOです。

ケニアで障がいのある子どもたちと生きる公文和子さんの手記『グッド・モーニング・トゥー・ユー!』

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