NHK連続テレビ小説「エール」(月~土曜、午前8時)の第4回が2日(木)に放送され、平均視聴率が19・5%(関東地区)だったことが3日、ビデオリサーチの調べで分かった。
この回では、小学5年生になった裕一(石田星空)が母まさ(菊池桃子)に連れられ、福島県・川俣町にある母の実家に行った時のことが描かれる。そこで、美しい歌声(「いつくしみ深き」讃美歌312番)に導かれて教会の扉を開くと、聖歌隊の真ん中に少女(清水香帆)が立っていた。それが、後に妻となる音との初めての出会いだったという重要なシーンだ。
前回、その教会が日本基督教団・福島教会がモデルになっていると書いたが、作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)についての資料を調べてみると、実はこういうことだった。
古関のレコード以外の洋楽体験は何であったのであろうか。それは教会から聞こえてくる讃美歌であった。……
古関の生家の近くには福島教会があった。ウィリアム・メレル・ヴォーリズによって設計された煉瓦(れんが)・木造平屋建てのこの教会は、古関が生まれた明治四二年に建てられた。構造は木骨煉瓦造、平屋一部二階建て、切妻(塔屋は尖塔屋根)で、縦長で上部が尖塔状の窓が採用され、塔屋上部を木造の真壁造りにすることによって、洋風近代化の印象が強調されていた。
教会から聞こえてくる讃美歌の響きが、少年の心に洋楽の美しさへの憧れをもたらし、その音楽美を刷り込ませたのである。柔らかいオルガンの演奏で歌われる旋律は優しく滑らかだった。
(菊池清麿『評伝 古関裕而──国民音楽樹立への途』彩流社、18~19頁)
古関の生家は「喜多三(きたさん)呉服店」といって、現在の福島市大町にあった。一方、福島教会は宮下町で、古関家から北に700メートル、徒歩で約10分の距離にある(地図の上の「万世町」とあるところの少し北にある)。
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ドラマで賛美歌が聞こえてくるのは川俣町にある教会という設定だったが、そこは古関家から東南に20キロ、徒歩だと4時間もかかる。ただ、確かにここにも日本基督教団・川俣教会があり、1917年の創立だ。
ところで、福島教会を設計したヴォーリズと古関は会ったことがある。滋賀県の近江兄弟社学園(現・ヴォーリズ学園)で古関は演奏会を開いたことがあるのだが、それは、近江兄弟社が販売していたハモンド・オルガンを古関が気にいって、自宅レッスン用に家1軒分の価格で購入し、昭和20年代のNHKラジオ・ドラマ「君の名は」や歌謡曲「フランチェスカの鐘」でもハモンド・オルガンを使用していたという縁があったからだ。
(昭和22年頃)進駐軍放送WVTRが始まっていたが、その終了番組に、ハモンド・オルガン独奏が毎晩あって、その音色が非常に多彩豊富で変化があり、幽玄な境地さえ表現できるので、私は、これを使おうと思いついた。
(古関裕而自伝『鐘よ鳴り響け』日本図書センター、173頁)
このハモンド・オルガンを日本に持ち込んだのがヴォーリズなのだ。その演奏会の時に古関とヴォーリスは握手をしたというが、幼少期に賛美歌が聞こえてきた教会を設計したヴォーリズと年を経て邂逅(かいこう)したというのも感慨深いものがある。
それはともかく、古関裕而と妻の金子(きんこ)が出会ったのは、実はドラマに描かれたように子どもの頃ではなく、古関20歳、金子18歳の時で、3カ月の文通を経てのスピード結婚だった。古関が1929年、英国の作曲コンクールで入賞し、これが日本人初の快挙だったことから新聞に大々的に取り上げられ、その記事を読んだ金子がファンレターを出したことがきっかけだ。つまり、子ども時代に出会った初恋の人と結婚するというのは、あくまでもドラマ上の設定なのだ。
ただ史実をなぞるだけだと、連続ドラマとしての変化に富んだストーリー展開や伏線などで視聴者の心をつかむことはできない。そこで、史実をヒントに想像力を膨らませ、物語を織り上げていくのがドラマのいいところなので、「事実と違う」と細かいことは言わず、ドラマと古関裕而の生涯の両方を比較して楽しみたい。
今週は少女・音の家族、関内家(母親が薬師丸ひろ子、父親が光石研)のエピソードが描かれる。オペラ歌手の双浦環(ふたうら・たまき、柴咲コウ)が教会で歌を披露するところに、後にオペラ歌手を目指すことになる音が居合わせるなど、第7回(7日)と第9回(9日)でも教会のシーンが出てくる。このように関内家は聖公会の家庭という設定なのだが、実際の金子の実家である内山家はクリスチャン・ホームではないようだ。
NHK連続テレビ小説「エール」とキリスト教(1)日本基督教団・福島教会と日本聖公会・福島聖ステパノ教会
NHK連続テレビ小説「エール」とキリスト教(3)「長崎の鐘」と永井隆
NHK連続テレビ小説「エール」とキリスト教(4)古関裕而が聞いた教会の鐘の音