WCRP日本委員会 教皇逝去で戸松義晴理事長がコメント「全人類の希望と慈愛の象徴」

世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会(戸松義晴理事長)は4月22日、教皇フランシスコの訃報を受けて「ローマ教皇フランシスコ台下崩御に接して」と題する理事長のコメントを発表した。

戸松氏は、「全人類の希望と慈愛の象徴」であった教皇が、混迷と分断の時代に直面する国際情勢の中で「誰よりも率先して、信頼、対話、協調、連帯、和解、赦しといったメッセージを発信し、実際に行動して」きたと評価し、「分断をのり越え、和解をもたらすための精力的な行動に、たくさんの勇気と励まし」をもらったと謝意を示した。

また、2019年に来日した際の発言や、昨年7月広島でWCRP日本委員会が開催した「AI倫理のための国際会合」に寄せたメッセージを例に、「こうしたメッセージと行動は、懸命に平和のために心血を注いで実践をしている人たちに、同じ志を共有しているという一体性から生じる安心感と、そこから湧き上がる今後の行動への躍動感に満ちた活力を与え」たと、その功績をたたえた。

最後に、教皇の遺志にこたえるため「様々な宗教者がより積極的に対話を重ね、力強く連帯し、『すべてのいのちを守るため』の慈しみの実践を新たにする」と誓っている。

コメントの全文は以下の通り。


ローマ教皇フランシスコ台下崩御に接して

ローマ教皇フランシスコ台下の崩御に接し、大きな悲しみに打ちひしがれる思いをしております。全世界のカトリック教徒の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。

フランシスコ台下はまさに全人類の希望と慈愛の象徴でありました。フランシスコ台下が教皇の立場にあったこの10数年間、世界は混迷と分断の時代に直面してきました。戦争による犠牲者や難民は現代史上の最大規模となり、世界の5人に1人が極度の貧困状態に置かれ、また地球温暖化が急速に進み、多くの人々の生命と生活を脅かしております。さらに絶対悪である核兵器の廃絶は未だ道筋が見えるどころかその使用の危機が迫っております。これらの背景には独善的で排他的な自己中心主義や利益至上主義の蔓延があり、それによって相互不信を生み出していることがあります。

こうした暗澹たる厳しい国際情勢の中、フランシスコ台下は誰よりも率先して、信頼、対話、協調、連帯、和解、赦しといったメッセージを発信し、実際に行動してこられました。私たち、諸宗教の連合体であるWCRP日本委員会は、フランシスコ台下の分断をのり越え、和解をもたらすための精力的な行動に、たくさんの勇気と励ましを頂いてまいりました。

フランシスコ台下は、パレスチナとイスラエル間や米国とキューバ間の和解の実践をはじめ、イスラーム発祥の地であるアラビア半島をローマ教皇として初訪問、イスラームとキリスト教の宗教間対話を促進されました。核兵器問題では、ヒバクシャの写真「焼き場に立つ少年」の配布を通して核の悲惨さを伝え、廃絶を訴えられました。難民問題ではヨーロッパ全教区に対して中東からの難民を受入れることを呼びかけ、実際にバチカンにおいて数家族を受入れされました。そして気候変動では、回勅「ラウダート・シ」を発表し、地球の脆さと貧しい人々との間にある密接な繋がりやすべてが世界の中で緊密に関連しているという確信を語り、社会・人間問題の結びつきから地球環境の保護を訴えられました。これらはフランシス台下の愛の実践のほんの一端ではあると存じますが、これらの行動を通して、多くの平和を希求する人々が勇気づけられました。

特に強く印象に残っているのが、2019年に「すべてのいのちを守るため」という祈りと信念を分かち合うために来日されたことです。日本においてフランシスコ台下は、様々な宗教者を含め、精力的に多くの人々と対話を重ね、励ましと勇気をもたらすメッセージを届けてくださいました。

例えば、「国際的な平和と安定は、相互破壊への不安や、壊滅の脅威を土台とした、どんな企てとも相いれないものです。むしろ、現在と未来のすべての人類家族が共有する相互尊重と奉仕への協力と連帯という、世界的な倫理によってのみ実現可能となります」と述べ、過剰な利己主義に警鐘を鳴らし、協調主義にもとづいた和解の実践を呼びかけられました。

また、「完全でなく、純粋でも洗練されていなくても、愛をかえるに値しないと思ったとしても、丸ごとすべてを受入れる。そして障害をもつ人や、弱い人を受け入れ、共同体として傷ついた人を癒し、若いとゆるしの道をつねに示す」と語り、社会生活において忘れられ、排除されている人々に思いを寄せ、包摂的な社会の実現を語りかけました。

さらに、「紛争の正当な解決策として、核戦争の脅威による威嚇をちらつかせながら、どうして平和を提案できるのでしょうか」と不信にもとづく不誠実な政治のあり方に忠告し、「真の平和とは、非武装の平和以外にありえません」と述べ、相互信頼にもとづく対話による外交を促しました。

さらにまた「この理想を実現するには、全ての人の参加が必要です。個人、宗教団体、市民社会、核兵器保有国も、非保有国も、軍隊も民間も、国際機関もそうです。核兵器の脅威に対しては、一致団結して応じなくてはなりません」と語り、すべての人々の強固な連帯を呼びかけられました。

昨年7月広島でWCRP日本委員会がローマ教皇庁生命アカデミー等と「AI倫理のための国際会合」を開催した際にも、フランシスコ台下は、私たちに「この新しい技術の時代に、人間の尊厳を守るための積極的なコミットメントの必要性について、私たちが共に団結していることを世界に示しましょう」との連帯のメッセージを寄せてくださり、AIという新たな人類の課題に対しても果敢に取り組む姿勢を示されました。

こうしたメッセージと行動は、懸命に平和のために心血を注いで実践をしている人たちに、同じ志を共有しているという一体性から生じる安心感と、そこから湧き上がる今後の行動への躍動感に満ちた活力を与えました。フランシスコ台下の数々のご功績に心からの感謝を表します。

フランシスコ台下のご遺志にこたえるためにも、WCRP日本委員会は、様々な宗教者がより積極的に対話を重ね、力強く連帯し、「すべてのいのちを守るため」の慈しみの実践を新たにすることを誓います。

心よりご冥福をお祈りいたします。

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