国内では過去最大規模となる展覧会「ルーベンス展─バロックの誕生」(主催:国立西洋美術館、TBS、朝日新聞社)が東京・上野の国立西洋美術館で開催されている。
ペーテル・パウル・ルーベンス(1577~1640)は、児童文学「フランダースの犬」で少年ネロが見たがっていた「キリスト昇架」などを描いた画家として有名だ。ヨーロッパでは「王の画家にして、画家の王」と称えられ、ルネサンス後の壮麗華美なバロック期の画家として、その作品は400年以上にわたって人々を魅了してきた。
フランドル(英語フランダース。現在のベルギー西部やオランダ南部)のアントウェルペン(英語アントワープ)で育ったルーベンスは、幼いころからイタリアに憧れを抱き、後にそこで実際に生活もして、諸作品を研究することで自らの芸術を大きく発展させてきた。何と言ってもイタリアは、古代美術やルネサンス美術が栄え、特にローマはバロック美術の中心だからだ。そこで同展では、古代彫刻やイタリア・バロックの芸術家の作品などとともにルーベンスの作品を展示して、ルーベンスがイタリアから何を学んだのか、またイタリア・バロック美術とどんな関係があるのかを明らかにする。
展示会場は次の7章で構成されている。「ルーベンスの世界」、「過去の伝統」、「英雄としての聖人たち─宗教画とバロック」、「神話の力1─ヘラクレスと男性ヌード」、「神話の力2─ヴィーナスと女性ヌード」、「絵筆の熱狂」、「寓意と寓意的説話」。時系列ではなく、テーマごとにルーベンスの作品をたどれるようになっており、そこには3メートル級の大作・祭壇画が並んでいる。
特にクリスチャンに見てほしいのが、第3章の「英雄としての聖人たち─宗教画とバロック」。ここには「聖ドミティラ」、「天使に治療される聖セバスティアヌス」、「アベルの死」、「キリスト哀悼」、「死と罪に勝利するキリスト」、「法悦のマグダラのマリア」などが展示されている。
必見なのは、初来日となる「聖アンデレの殉教」(1638~39年)。ルーベンスが死の前年に完成させた集大成ともいえる最後の大型宗教画だ。同作品が門外に出たのは史上2度目。
ペトロの兄弟である十二使徒の一人アンデレは、伝承によるとギリシアのアカイアで処刑され、殉教したとされる。その時、「キリストと同じかたちの十字架にかかるのは畏(おそ)れ多い」と自ら申し出て、X字の十字架にかけられたという。その姿を立体的な肉体表現と躍動的な筆致、ダイナミックでドラマチックな構成で描いている。空からは一条の光が差し込み、殉教のしるしである棕櫚(シュロ)の葉と冠を手にして天使が近づいている。
さらに、日本ではアニメ「フランダースの犬」で少年ネロがその前で祈りをささげ、最後に見ることがかなったアントウェルペン聖母大聖堂の「聖母被昇天」「キリスト昇架」「キリスト降架」を4Kカメラで撮影。館内ロビーでネロとパトラッシュが最期に見た景色が原寸大に近い大きさで完全再現されているのも見どころ。
「ルーベンス展─バロックの誕生」は1月20日まで。開館時間は、午前9時半~午後5時半まで。金・土曜日は午前9時半~午後8時まで(入館は閉館の30分前まで)。休館日は月曜日(ただし14日は開館)、15日(火)。料金は、一般1600円、大学生1200円、高校生800円。団体は、一般1400円、大学生1000円、高校生600円。※団体料金は20人以上。※中学生以下は無料。※心身に障害のある方および付添者1人は無料(入館の際に障害者手帳を提示)。