カトリック中央協議会は15日、日韓政府関係の和解に向けて、勝谷太治司教(日本カトリック正義と平和協議会会長)の談話を発表した。
「神は、キリストを通してわたしたちを御自分と和解させ、また、和解のために奉仕する任務をわたしたちにお授けになりました」(2コリント5:18)という言葉を託された教会として、「私たちが大切な隣人である韓国との間で、いかに和解と平和を深めることができるかを考えましょう」と呼びかけた。
また、「真理を識別するためには、交わりと善を促すものと、その逆に孤立と分裂と敵対をもたらすものを見分けなければなりません」と諭した教皇フランシスコの言葉を引用し、「私たちは、煽動にまどわされず、情報の真偽を見きわめられるよう目を開いていなければならぬと思います」と伝えた。
「政治がどうであれ、日本と韓国が大切な隣国同士であることに変わりはありませんし、政治が独走して人々の友好関係を傷つけることがあってはなりません」と述べ、「日本がかつて侵略し、植民地支配をした歴史を負う国に対しては、日本政府には特別慎重な配慮が必要でしょう。問題の解決には、相手をリスペクトする姿勢を基として、冷静で合理的に対話する以外の道はありません」と語った。
その上で、平和学者ヨハン・ガルトゥング氏が提唱する「超越法」を取り上げて、「国家間の紛争は、両当事国の望みがともに達成されるとともに、両者がこれまで以上の何かをともに作り上げることで確執を乗り越えるべきでしょう。日韓両国政府には、共に知恵をしぼり、行き詰った二項対立の悪循環を脱し、壊れた関係を修復していく道筋を見出していくことが求められます」と話す。さらに、「『基本条約』や『請求権協定』にこだわり、解釈の袋小路から抜け出せないのならば、日韓間の真の友好関係を築き上げるためには、明確な『植民地支配の清算』を含んだ新たな法的な枠組みを作ることも考えられねばならない」と提案する。
最後に、キリストは「罪によって互いに憎み分裂するわたしたち人間の心に愛の火をともし、心の武装解除をなさしめ、傷ついた心をいやし、人類一致と恒久平和のための内的基礎を築いてくださるかた」だとして、次のように締めくくる。
日韓の政治指導者は、緊張を高めるのではなく、過去に誠実に向き合い、未解決のままにしてきたさまざまの問題を当事者の立場から解決していくべきです。そうした試みが実を結び、日本と韓国、日本と朝鮮半島との信頼と友好関係が発展し、それが東アジアの平和体制の実現に結びついていくように、平和旬間の今、教皇がアシジのフランシスコの「平和を求める祈り」をもとに示された、次の祈りを心に留めながら、平和の主に祈りましょう。
主よ
わたしたちをあなたの平和の道具にしてください。
交わりをはぐくまないコミュニケーションに潜む悪に気づかせ、
わたしたちの判断から毒を取り除き、
兄弟姉妹として他の人のことを話せるよう助けてください。
あなたは誠実で信頼できるかたです。
わたしたちのことばを、この世の善の種にしてください。
騒音のあるところで、耳を傾け、
混乱のあるところで、調和を促し、
あいまいさには、明確さを、
排斥には、分かち合いを、
扇情主義には、冷静さをもたらすものとしてください。
深みのないところに、真の問いかけをし、
先入観のあるところに、信頼を呼び起こし、
敵意のあるところに、敬意を、
嘘(うそ)のあるところに、真理をもたらすことができますように。
アーメン。
また日本キリスト教協議会(NCC)も15日、「平和の共同メッセージ2019」を公開した。
金性済氏(総幹事)、飯塚拓也氏(東アジアの和解と平和委員会委員⻑)、星出卓也氏(靖国問題委員会委員⻑)、北村恵子氏(女性委員会委員⻑)、小泉嗣氏(部落差別問題委員会委員⻑)、李明生氏(在日外国人の人権委員会委員⻑)、原田光雄氏(URM委員会委員⻑)の連名で出された声明は、次の聖書の引用から始まる。
実に、キリストはわたしたちの平和であります。二つのものを一つにし、御自分の肉において敵意という隔ての壁を取り壊し、規則と戒律ずくめの律法を廃棄されました。こうしてキリストは、双方を御自分において一人の新しい人に造り上げて平和を実現し、十字架を通して、両者を一つの体として神と和解させ、十字架によって敵意を滅ぼされました。(エフェソ2:14~16)
これらはすべて神から出ることであって、神は、キリストを通してわたしたちを御自分と和解させ、また、和解のために奉仕する任務をわたしたちにお授けになりました。(1コリントI5:18)
まず、今年5月からの天皇の代替わりの行事に触れ、「わたしたちは今また、⽇本国憲法の謳(うた)う政教分離原則への抵触の問題の前に⽴たされています」と指摘する。
「現在、⽇本は韓国との関係が戦後最悪の状況に置かれています」として、韓国への輸出規制の問題、名古屋での「平和の少女像」展示をめぐる顛末(てんまつ)、福島原発事故の放射能被害と避難生活に今も苦しむ人々、また沖縄・辺野古基地強制移設工事によって⺠意を踏みにじられ続ける沖縄県⺠の苦しみ、ヘイト・スピーチの問題、外国人労働者の問題など、現代の日本が抱える問題を指摘する。その上で、「わたしたちは、わたしたちの依って⽴つ主イエス・キリストの福⾳の信仰に従い、この⽇本において、また、⽇韓と⽇朝の関係をはじめとする北東アジアにおいて真実の平和を確⽴するために、⽇本国憲法第9条を守り抜く決意を新たにします」と表明。
そして、憲法9条の精神が、「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」(マタイ5:44)というキリストの言葉に裏づけられるとして、次のように述べる。
共に平和な共生社会を作り上げる隣人として迎え入れる考えとそのための実践が、日本の行政と社会のみならず、わたしたちキリスト教会の宣教の課題としても求められています。その意味において日本国憲法第9条の根本精神とは、外交上の指針であるのみならず、すべての⺠族に対し差別を許さない心の武装解除の倫理として和解と平和の共生社会の構想へとわたしたちを導く道しるべともいえるのです。
最後に、「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす」(ヨハネ20:21)を引用し、「わたしたちは、この主の福音の命令を託されて、今新たに聖霊を主の息として吹きかけられて導かれ、自由と正義と平和を揺るがすこの時代の政治の嵐の中を、恐れずに主イエス・キリストの指し示すいのちと平和の向こう岸を目指しながら進み続けます」と締めくくった。
日本聖公会も15日、「8・15日韓聖公会共同宣言──『キリストの平和』を作り出す北東アジアのクリスチャンとして」と題した声明文を、大韓聖公会議長の兪樂濬(ユ・ナクジュン)主教と日本聖公会の植松誠首座主教の連名で発表した。
「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」(マタイ5:9)という聖句が冒頭に掲げられる。
韓国と日本の聖公会は、過去35年間にわたって信頼関係や交流を築き上げてきたが、両国政府の政治や経済、防衛政策に端を発する問題によって水を差され、「最近も対韓輸出規制問題から、両国間の緊張が高まって、両国間の親善や民間交流にも大きな影響を与えています」という。
そうした「日韓の関係の悪化は、朝鮮半島をはじめとする東北アジア、そして全世界に大きな悲しみをもたらす」として、「正しい歴史認識に立つリーダーシップと国際関係が保たれることを願い求めます」と訴える。
また日韓聖公会が、過去から現在に至るまで変わらぬ「相互信頼に立脚しながら、平和の福音を宣教するために交流を着実に続けてきました」と述べ、「キリストの平和を作り出す日韓聖公会は、主から与えられた和解の務めを果たすために、祈り、連帯し、主から与えられた平和の使命をこれからも誠実に果たしていくことを約束します」と結んだ。