問題の核心

興味深いことに、この問題に関してバーフィンクが学生たちに提示した解決法は、近代以前、17世紀の説教者に注目することだった。その説教者とは、カトリックの司教ジャン・バティスト・マシリオンである。バーフィンクは、フランス王ルイ14世に対してマシリオンが語った説教「救われしわずかな者」こそ、説得力があり、「距離を置かない」説教のすばらしい一例だと考えていた。

マシリオンはルカ4章27節(「預言者エリシャの時代に、イスラエルには重い皮膚病を患っている人が多くいたが、シリア人ナアマンのほかはだれも清くされなかった」)について説教し、「私たちの日常生活に対して目に見える影響を与えることのない名ばかりのキリスト教は、神の目には何の慰めにもならない」ことを、王とその社交界の仲間たちに確信させた。

書いたものを読むだけでも、この説教のクライマックスはドラマチックだ。「私たちを震えさせるような真実」へと聴衆を引き寄せ、マシリオンは自らのメッセージに「胸がいっぱいになり、恐れおののきながら」、力強く率直に聴衆に福音を語った。マシリオンの説教は、聴衆に強い印象を与えるためだけでなく、それを語る本人、つまりマシリオン自身にも影響を与えるべく設計されていたのだ。

バーフィンクは、マシリオンの説教を学生に紹介するにあたり、次のように語った。

「(マシリオンの)言葉が与えた影響は並外れたものでした。王も、その取り巻きも、そこにいた人たち全員が身震いしました。説教者自身も感情が溢(あふ)れんばかりになり、ものも言えなくなりました。マシリオンは一瞬沈黙した後、顔を手で覆いました」

ロイヤル・ウエディングの説教がツイッターに与えた影響は大きいものの、マシリオンの説教ほど強い印象をその場にいた聴衆に与えたというわけではないようだ。貴族たちは作り笑いをし、有名人は笑顔を見せたが、押し黙って青ざめた顔を手で覆う者は一人もいなかった。

それでもカリー主教の説教は、明らかにそのメッセージの内容を信じている人が興味深くも語っているように、世俗的な大衆を驚かせた。つかの間ではあったが、「説教で感動することなどない」と思っていた現代人を感動させたのだ。

英国国教会は、自教会の講壇でもマイケル・カリー風の説教をもっと推進することに関心を示した(「タイムズ」)。しかし最近の調査では、(ウエディングから)数週間が経過した今、多くの英国人は、カリー主教の説教そのもの、そしてそのスタイルに相反する感情を抱いているようだ。

バーフィンクやテイラーの説が正鵠(せいこく)を射ているなら、現代英国人がロイヤル・ウエディングの説教に早々と興味を失ってしまっているのは、まさに現代人のモダニティーゆえだ。カリー主教の正直さと熱心さは、英国人の「距離を置いた自我」に影響を与えたが、それも一瞬のことだった。距離を置いた自我とは、かくも強いものなのだ。

距離を置いた自我(の壁を乗り越えて人の心に福音を届けること)に挑もうとする説教者たちは、あらゆる助けを必要としている。今は、バーフィンクをきっかけとして、アウグスティヌス、マシリオン、カルヴァンら、近代以前の偉大なキリスト教の説教者らが私たちを救いに来てくれる時ではないだろうか。モダニティー、そしてそれが生む束縛に邪魔されていない近代以前の説教者の説教から、私たちは、「距離を置くことなく、いかに神の恵みの福音に応え、それを宣べ伝えていくか」を学ぶことができるのではないだろうか。

2018年7月13日、ジェイムス・エグリントン

本稿執筆者のジェイムス・エグリントン博士は、エディンバラ大学(英国スコットランド)講師(改革派神学)。『ヘルマン・バーフィンクの説教・説教者』(邦訳なし・ヘンドリクソン社、2017年)編者・翻訳者。

本記事は「クリスチャニティー・トゥデイ」(米国)より翻訳、転載しました。

出典URL:
https://www.christianitytoday.com/ct/2018/july-web-only/preaching-impact-in-post-christian-world-herman-bavinck-sec.html

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