11月3日の米大統領選を前に、3日、野党・民主党のアイオワ州党員集会で候補者選びの予備選が行われた。最初、民主党候補者は28人も立候補し、米国史上、最多人数となったが、結局、多くの候補者が離脱し、残ったのは11人。しかし事実上、上位4人(バーニー・サンダース氏、ピート・ブティジェッジ氏、エリザベス・ウォーレン氏、ジョー・バイデン氏)が争うことになる見込みだ。これから4回に分けて、候補者の信仰的背景なども交えながら、米国の「政治と宗教」事情をお伝えしたい。
昨年12月まではバイデン前副大統領が優勢と伝えられていたが、注目の第1回投票が行われたアイオワ州で、バイデン氏は結果を残すことができなかった。
4人のアイオワ州の投票結果は以下のとおり。
ブティジェッジ氏 得票率26・2%(得票数564、代議員数13)
サンダース氏 26・1%(562、12)
ウォーレン氏 18%(388、8)
バイデン氏 15・8%(340、6)
2位のサンダース氏にわずか0・1%の差とはいえ、、予備選で重要視される初戦でブティジェッジ氏が台頭したことは多くの人々を驚かせた。ブティジェッジ氏本人もスピーチで次のように語っている。
「スタートの時点ではスタッフも4人しかおらず、知名度も資金も乏しく、立候補する意味などないと言われたが……。この驚くべき結果は、この選挙戦が成功していることを示している」
インディアナ州サウスベンド市長を務めたブティジェッジ氏は38歳。もし指名を勝ち取り、本選挙で勝てば、史上最年少の大統領となる(最年少の立候補者は1897年のウィリアム・ジェニングス・ブライアンで当時36歳)。
ブティジェッジ氏の大きな特徴は多面的な経歴だ。ハーバード大学、オックスフォード大学院卒というエリートとしての面、大手コンサルティング会社で培ったビジネスマンとしての面、アフガニスタン派遣部隊を含む約7年の従軍歴を持ったタフな面、そして政治家としての面を併(あわ)せ持っている。
市長としてブティジェッジ氏は、住宅地再建計画や厳しい犯罪対策に特に力を入れて取り組んだ。それによって貧困や犯罪が一掃されたわけではないが、その功績は一定の評価を得ている。ほかの候補から、「小さな町の元市長に大統領は無理だ」と揶揄(やゆ)されることもあるが、「今の米国に必要なのは新しい声だ」とひるむ様子はない。
公約を見ると、地方都市や農家への投資増額、最低時給引き上げ(現在の7・25ドルから15ドル)など社会主義的な傾向もあるが、国民保険への単一支払者制度導入には反対など、極端な政策はあまり見られず、堅実性が評価されているのではないかと見る専門家もいる。
なお、ブティジェッジ氏は同性のパートナーがいることを明らかにしているが、その結婚式は自らが属する米国聖公会の教会で行われた。聖公会の間でもジェンダー理解に関する意見は分かれており、米国聖公会と英国聖公会の対立、米国聖公会保守派の離脱、北米聖公会の設立は記憶に新しい。候補者のジェンダー理解に対する反応は、予備選でも地域ごとの傾向が大きく分かれるポイントだ。
2月は4つの州で予備選が行われる(11日ニューハンプシャー、22日ネバダ、29日サウスカロライナ)。3月3日は、最も多くの州(15州)が投票を行う「スーパー・チューズデー」で、投票者数は全米人口の3分の1を超える。特に今年は、慣習として6月上旬に投票を行ってきたカリフォルニア州(全米最大の4000万人の人口を抱える)が投票日程を前倒ししたため、本選挙における3月3日の重要性が一気に高まった。
6月6日まで米国各地で予備選が行われたのち、7月13~16日に行われる民主党全国大会で同党の大統領候補が正式に指名される。本選挙の対戦相手となるドナルド・トランプ大統領は、数々のスキャンダルや弾劾裁判を乗り越え、迎え撃つ構えだ。大統領選の盛り上がりはこれから加速度的に世界の注目を集めるだろう。